トランプとゴルバチョフ
かつてトランプと同じように考えた指導者がいました。全然経営者ではないですが、ソ連最初で最後の大統領ゴルバチョフです。彼が1985年に書記長になった時、ソ連は原油安で経済難に陥っていた。ゴルバチョフはどう考えたか?
「わが国は、東欧をはじめ、アジア、アフリカ、中南米の共産陣営まで支援している。わが国の負担は大きすぎ、こんな状態をいつまでも続けることはできない」と。
共産主義陣営のトップなのに、経営者のトランプとまったく同じことを考えた。そういう考えが高じて、「東欧の政治に関わるのはもうやめよう」となった。結果、1989年にベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツは統一された。それで、終わらなかった。結局、1991年末、ソ連は崩壊することになった。
トランプが大統領になれば、アメリカの没落は加速する
まだ、トランプが大統領になれるかわかりません。大統領になっても、賢いブレーンたちによって軌道修正するかもしれません。しかし、ここでは、彼が大統領になって「有言実行した」と仮定してみましょう。そうなれば、アメリカの没落は、加速することでしょう。なぜでしょうか?
彼が言っていることは、以下のようにまとめることができます。
「アメリカは貧しいので、自国の負担を減らす。他国の負担を増やす。アメリカは、他国への軍事的関与を減らす」
これをやったらどうなるでしょう? アメリカの支配力(=覇権)が弱まります。かつてのソ連がそうであったように。なぜでしょうか?
会社員の方は、社長さんに支配されているでしょう? なぜ、会社員は、社長さんの言うことを聞いているのでしょうか? そう、「金をもらっているから」です。つまり、会社員は社長さんに、「金で支配されている」のです。もし社長さんが「もう金払わない」といったら、会社員は社長の言うことを聞き続けるでしょうか? もちろん言うことを聞かなくなり、転職先を探しはじめるでしょう。
世界も同じで、「金を払うこと」が支配力の源泉になっています。「金を払わなくなる」と、支配力は減ります。
国際社会ではもう1つ、「軍事力」「安全保障」を提供することで支配する方法もあります。EUは、経済規模はアメリカより大きいぐらいですが、NATOを通して事実上アメリカに支配されています。日本は、GDP世界3位の大国ですが、日米安保によって支配されています。
「アメリカは、出す金を減らす」
「アメリカは、軍事的関与を減らす」
というのは、要するに「アメリカの支配力を減らす」と言うのと同じです。
「金も出さない」「軍事力も出さない」国の言うことを、聞く理由はあるでしょうか? もちろんありません。誰も言うことを聞かない国のことを、「覇権国家」と呼ぶことができるでしょうか? もちろんできません。つまり、トランプは、結果的に「アメリカは覇権国家をやめる」と言っているのです。
問題は、ゴルバチョフがそうだったように、トランプもおそらくそのことに気がついていない。会社のリストラと同じように考えているので、気がつかないのでしょう。トランプが大統領になって「有言実行」すれば、世界に大変動が起こることでしょう。
image by: a katz / Shutterstock.com
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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