フィリピン「暴言」大統領に忍び寄る、中国の黒い影

 

そもそもフィリピンの華人とは、もともと苦力出身の移民は少なく、台湾からの商業移民がほとんどでした。

その名残で今でもフィリピンでは繁体字が使われています。しかし、マルコス政権が、台湾と断交し中国と国交を結んだことで移民の流れが変わりました。マルコス政権は、中国からの移民にもフィリピン人と同等の国民待遇を与える法律を制定するなど、媚中に走っていたのです。

そのような経緯を持ったフィリピンの華人社会は、当然ながら親中政権を望んでいます。その点、アキノ政権は中国に冷たく、南シナ海の領有問題においても、日米をはじめとする国際社会と手を組み、中国とは対決する姿勢を見せていました。

一方のドゥテルテ氏は、中国と領有権を争っているスカボロー礁について、「水上スキーで行って、国旗を立ててくる」などと発言している一方で、中国とは対話を持って問題解決に当たりたいとも言っており、発言の端々には親中の姿勢が明らかです。

中国がインフラ整備などで経済支援を行えば、領有権問題は棚上げするとも発言しており、内実は中国の支援に大いに期待していて、領有問題には目をつぶっても構わないと思っているだろうというのが専らの下馬評です。もちろん、フィリピンの華人社会だけでなく中国政府もこの新大統領の登場を大歓迎しています。

フィリピン次期大統領ドゥテルテ氏、意外に深い華人とのつながり

アメリカが、南シナ海問題でこれまで同様にフィリピンとの連携を深めたいと牽制する一方で、中国外務省の陸慷報道官は、「われわれは、フィリピンの新政権がわれわれと同じほうを向いて立場の違いを適切に処理するよう望む」と述べ、親中的態度を期待しています。

ドゥテルテ氏は、中国の老獪な手腕をまだ知らないのでしょう。インドネシアが中国に鉄道整備を発注してひどい目に遭っていることを知らないのでしょうか。

中国ようやく5キロ区間だけ建設許可 受注のインドネシア高速鉄道 残る区間なお買収めど立たず

インドで日本が中国を破って新幹線事業を受注した際、インドのネットユーザーたちからは「中国の新幹線はいらない」との声が高かったことを知らないのでしょうか。

インド人の反応「新幹線は歓迎だが、中国高速鉄道は要らない」=中国報道

中国への経済依存が高まれば、南シナ海における中国の実効支配を牽制したり、対抗措置を取ることは難しくなります。現在、フィリピンは中国の南シナ海での横暴をオランダ・ハーグの仲裁裁判所に申し立てしていますが、中国側はこれに反発しています。新大統領の誕生で、この申し立てが取り下げられることにならないか心配です。

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すでにフィリピン政府は今年の3月、アメリカ政府との間で、フィリピンの空軍基地5カ所を米軍拠点とすることで合意していますが、これが骨抜きになる可能性もあります。加えて、南シナ海問題で進展しつつあったベトナムとの共闘関係も、今後は微妙になってくるかもしれません。そうなると、南シナ海をめぐる各国の安全保障体制に大きな変化をもたらすことになりかねません。

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