場所は開かせないが、中規模のマンションが所狭しと立ち並ぶ地域で、私は、子どもの様子がおかしいという相談を母親から受けてい
た。
その子は、中学1年生になる女子生徒であり、公立の中学校に通っていた。小学校からの持ち上がりで、同じ出身小学校の女子と仲良しグループを作り、他の小学校出身のグループの子らとも比較的良好な関係を築いていたとのことであった。
夏休みが終わり、新学期に入った日にすでに異変は起きていたようだ。
これは後に調査をしてわかったことであるが、幾つかのグループが混在する中、彼女が所属するグループ内で、最も仲の良い子が夏休み中、本人が居ない場で悪口を言ったことから、本人に反省させようという話になって、グループでの下校や遊びに行く時などに誘うのをやめようとか、LINEの新しいグループを作って、本人だけを外そうという決定がされていた。
彼女自身はそれに気がつくこともなく、それまで通りのコミュニケーションが表面上行われていると思っていた。(正確には、「思い込もう」としていた。)
ただ、LINEのグループトークで既読がつくのが遅かったり、クラス内で話をしている時に、なんとなく距離を置かれていると感じ始めていたし、グループでの話題でも、自分だけが知らないということがあるなど、「何か変だな。」とは感じていた。
「なんだろう。」
「何か悪いことしたかな。」
などと考える時間が多くなり、帰宅してからも、何となくイライラしたり、考え事をしたりと、少し不安定な心持ちになっていた。
その変化に、母親は気がつき、「何かあったの?」から始まり、忘れ物や部屋の片付けを叱ったり、少し成績が落ちたことを責めたりしたが、いつもとは反応が異なったため、もしやいじめにあっているのではないかと問い質した。
その反応が激しかったことから、多感な思春期であることも加味して、私に相談をしたということであった。
通常、私は子どもに黙って調査をしない。
なぜしないのかといえば、調査事実は報告段階で本人にもわかることであり、親が子どもに無断で探偵に依頼して調査をさせたという事実が、子どもの気持ちや親への信頼感を傷つける結果になるからである。
(ただ、凶悪な犯罪被害であろう事案や大人や組織が結果手に絡んでしまっていると想定できるケースは、了解を取ること自体が危険であることから、その限りではない。)
また、保護者が本気になって子どもと向き合い、真剣に話をすれば、かなりの率で本音や事実を聞き出せるものである。親子の絆というものは、ちゃんとあるものだという実感がある。
だから、私は直接出向いて話を聞くという行動に出るときは、親子間で話し合いがあり、いじめを確認して学校にも相談したが、事が進まないケースやその他重大な問題が隠れていると思われるものなどでないと動けない。
動けないと表現したのは、相談全てに直接対応するのは時間的、体力的など不可能なのである。(電話対応のみで解決する事例もある。)
この件で、なぜ出向いて相談を聞いていたかといえば、被害者に当たる彼女が、スマホの検索でその月に起きていたいじめ自殺の記事を調べていたからだ。
当時の気持ちを彼女は、
「無視をされていることはわかったし、自分だけ誘われていないことも薄々気づいていた。少し悪いなっていう態度をとる子もいたけど、何も教えてくれなかった。もしも、私が死んだら、きっと彼女は苦しむだろうって思って、それが復讐になるかも。」
と考えていたそうだ。
被害者にとって、直接危害を加えてくる加害者はもちろん悪だがそれを見て見ぬ振りをする傍観者も悪なのだ。
お風呂の間に、母親はこの検索履歴を知った。というのも、本人がスマホを開いたまま、居間のテーブルに置き、お風呂に入ったため、その画面が目に入ったということだった。
相談中、私は調査を進めるにしても、校内に入ることもできなければ、スマホをハッキングすることも違法になるためできないから、どのように調査アプローチをするか考えていた。