「蜜月」も1年で破局。新陳代謝できぬ孫正義ソフトバンクの心配な未来

 

株主総会では、孫社長が一昨年、Uberに出資できるチャンスがあったが、手を出さなかったことを悔やんでいたシーンが印象的であった。Uberはアメリカで一度使えば便利だと誰でも実感できるサービスと言える。自分も初めて使ったのは2012年6月であり、当時から「なんて画期的なんだ」と、講演などの場で、「スマホが既存のサービスや決済を変える好例」として、Uberを何度も取り上げてきた。
その後、Uberは世間から注目されるようになり、ソフトバンクはUberへの出資を見送り、楽天は類似サービスであるLyftに出資を決めた。さらにソフトバンクはUberへの出資を後悔したのか、インドや東南アジアなどで同様のサービスを提供する会社に出資したのだった。

Uberへの出資を見送った状況を見ると、孫さんに欠けているのは「一般ユーザーの視点」であり、庶民が使って「便利だ」と思えるサービスに着目できないような気がしてならない。

株主総会で、現在67歳の、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は「孫さんみたいな人はいない。60歳になってもいないのに引退するなんて、冗談じゃないぞと申しあげた」とコメント。

また、71歳の日本電産・永守重信会長兼社長も「経営意欲と年齢は関係ない。孫さんは、絶対に辞めないと思っていた。69歳になったらまた10年やりたいと言いますよ」と発言し、孫社長を後押ししていた。

その姿はまさにシニアの経営者たちが、お茶をすすりながら、お互いを褒めあい、気持ちよくなっているだけに見えてしまった。ああいった経営者が、最後まで社長の座に居座り続けているから、日本企業はダメになっていくのだ。本来なら、そうした企業体質を批判するのが孫社長のイメージだったのだが、いまではすっかり、社長の座を譲りたくないワンマン社長に成り下がってしまった感がある。

柳井さんも守永さんも、 70歳前後であっても、第一線で会社経営をしていける優秀な経営者であることは間違いない。ただ、スピード感が求められるIT業界で、今の孫さんなら素早く動けても、5年から10年、経営者としてソフトバンクを引っ張り、世界中のベンチャー企業に嗅覚を働かせて投資を続けていくのは、ちょっと厳しいのではないか。それを一番、わかっているからこそ、孫社長はニケシュを後継者にするつもりではなかったのか。

個人的には、孫社長にはソフトバンクグループを60歳の誕生日を契機にニケシュ氏に委ね、ソフトバンクの事業を完成させて後継者に引き継ぎつつ、翌日からは全く新しい会社を立ち上げて、好き勝手に硬直化した日本企業をかき回わすような存在になって欲しかったと思う。

今回の騒動を見る限り、4年で社長が変わっていくNTTドコモのほうがよほど健全に見えたし、新陳代謝できないソフトバンクの未来が心配でならない。

image by: GongTo / Shutterstock.com

 

石川温の「スマホ業界新聞」』 より一部抜粋

著者/石川 温(ケータイ/スマートフォンジャーナリスト)
日経トレンディ編集記者として、ケータイやホテル、クルマ、ヒット商品を取材。2003年に独立後、ケータイ業界を中心に執筆活動を行う。日経新聞電子版にて「モバイルの達人」を連載中。日進月歩のケータイの世界だが、このメルマガ一誌に情報はすべて入っている。
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