安倍首相が「テレ朝」に激怒。党首討論で何が起きたのか?

 

そのうえで、肝心の場面をそのまま誌上再現すると、こうなる。

富川キャスター「もうほんとに時間が無くなってしまって聞き足りない部分がたくさんあるんですが、テレビでの党首討論は今週が最後になるんですね。安倍総理のご都合もあると聞いているんですけれども、我々としてはこの後もやりたいという気持ちがあるんですけれども」

安倍首相「例えば菅政権の時にですね、報道ステーションに菅さん出なかったじゃないですか。ですが、(当時の)党首討論は4回ですよ。今度は5回。ネットの討論もやってますから回数は多い。それともう一点は期日前投票が今、4分の1増えた。だから、その期日前投票の前にしっかりと議論を終えておくべきと思います」

この時、岡田が手をあげ、富川が岡田を指名したが、安倍はそれを遮るように「ちょっと6時には出なきゃいけない、飛行機の問題があるから」と声をあげた。富川は「最後の一言をお願いします」と岡田に発言を促す。安倍は「これちょっと…じゃないじゃない! これ」と聞き取り不能の言葉で議論をストップさせようとする。それでも岡田はなんとか「最後の2週間に、党首討論がないのは異常ですよ!」「総理が来ないのなら我々だけでもやりますよ」と言い終えた。

このあとは、「スケジュールがいっぱいなんだから」などと各自それぞれにしゃべってよく聞き取れない。安倍が立ち上がったところで録画の放映は終わり、画面はキャスター3人のライブ映像に切り替わった。

討論を取材していた他メディアの記者によると、安倍首相は収録後も感情の高ぶりを抑えきれない様子で、「6時までって言ったじゃないですか!」などとテレ朝側に文句をつけていたという。これで終わればまだしも、その後、先述のように秘書がフェイスブックでテレ朝批判を展開したのだから、安倍の執拗さは尋常ではない

それにしても、「18時を過ぎてから質問を投げかけ、あたかもこちらが打ち切った様な印象を与える演出は卑怯です」と言うのは、いくらなんでも被害妄想が過ぎるのではないか。少なくともテレ朝が演出したわけではないだろう。

報道によると、遅れたといってもたかだか1分ぐらいではないか。飛行機に乗り遅れるわけではあるまいし、むしろ、岡田の最後の発言を封じようとした態度のほうが見苦しい。もしこの番組で、安倍のイメージを悪くしたというなら、安倍自身のせいであって番組の責任ではない

この騒動でもわかるように、安倍首相とその取り巻きのテレビ局に対する高圧的な姿勢はもはや病的ですらある。自分を持ち上げてくれる日本テレビ系フジテレビ系のワイドショーやバラエティ番組には積極的に出演するくせに、気に入らない番組には陰湿に圧力をかける安倍官邸の手口について、今年3月いっぱいでTBS「NEWS23」のキャスターを降板した岸井成格は、次のように語る。

われわれは追い詰められている。安倍さんらは圧力と思わせる証拠は一切残さず、自主的に判断させるようテレビ局の幹部にプレッシャーをかけていた。政府与党の幹部が記者懇談で、「最近のあの番組ちょっとおかしいよな」「あれは偏向だ」などとしゃべり、記者からその内容のメモを受けとったキャップが局の幹部に上げる。あとで知ったことだけど、私はやたらとそれでやられていたんですよね。こういうのが蔓延すると現場が自粛、萎縮してしまう。

安倍首相とその周辺は、メディアを敵味方に分断選別しているとも岸井は言う。このままでは、マスメディアの危機は深まる一方だ。この悪い流れを断ち切り自由な言論を取り戻すためにも、参院選で安倍自民党に勝利を渡すことはできない。

image by: Drop of Light / Shutterstock.com

 

国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋

著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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