「相続」のはずが「争続」に? 身内が揉めるNGな遺言書とは

 

しかし、これは、どのような遺言書であっても良いわけではありません。遺言書を作りさえすれば争続を防げるというわけではないのです。実は、遺言書があったとしても、遺産分割協議が必要になったり、他の相続人の協力が必要になったりするケースもあるのです。では、具体的に、どのような場合でしょうか。

それは、「包括遺贈」で書いた遺言です。包括遺贈とは、「誰に何を渡す」という具体的な指定ではなく、例えば「長男へ全財産の3分の2、二男へ全財産の3分の1を相続させる」というように、具体的な財産ではなく、割合を指定した遺言書です。

包括遺贈で書いた遺言は、法的に無効というわけではありません。そのため、公正証書遺言であっても、このような遺言は作成できてしまいます。しかし、大きな問題があります。例えば遺言を書いた人の財産が、不動産と、ふたつの銀行の預金だった場合、銀行の担当者からしたら、この遺言では、長男が「全財産の」3分の2をもらうことはわかっても、「では実際、当行の預金は、誰にいくら払い戻せば良いのか」はわかりません。不動産の名義を変える法務局も同じ。

つまり、この遺言では、「具体的に誰に何を名義変更するのか一切わからないのです。そのため、実は、遺言書が包括遺贈で書かれていた場合には、遺言書がなかった場合と同様、「誰が何をもらうのか」という、遺産分割協議が必要なのです。その協議において、最大限主張できる相続分が、元々の法定相続分から、「長男3分の2、二男3分の1」に変わっただけ。これでは、何の解決にもなっていません。それどころか、遺言書で取り分を減らされた二男がへそを曲げてしまい、遺産分割協議に応じなくなる危険性さえあります。

遺言書に、具体的な財産を記載することは手間がかかります。しかし、このように割合だけを指定した「包括遺贈」では、争いを予防するどころか、むしろ争いを招く危険性が高いのです。

遺言書の作成は、実は落とし穴が多く、単に見本を見て自分で作成できるほど簡単なものではありません。中途半端な遺言を残した結果、争いを予防するどころか家族が争う火種になってしまったり、手続きを簡単にするどころか、寧ろややこしくしてしまったりしては、本末転倒です。

その遺言を書いた結果、相続が起きた後どうなるのか。これをしっかり認識したうえで、相続が起きた後の手続きに詳しい専門家に相談しながら作成するようにしましょう。

image by: Shutterstock

 

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