相次ぐ白人警官の黒人射殺事件。肌の色だけではない人種差別の問題点

 

いずれにしても、問題は根深く入り組んでいます。今回は論点を簡単に整理することで、私としては継続して考えていくしかないというのが実情ですが、少なくとも次のような5つの問題があるように思います。

1つは、どうして「白人警官の稚拙な対応」が増えているのかというと、あくまで推測ですが「リーマンショック以降の不況」のために、各地の警察が高給取りのベテランを解雇して若手を採用している、そこで治安維持行動に関するノウハウの継承に問題が出ているということがあると思います。これに加えて、ここ2年間続いた多くの事件を受けて警官には「スキを見せてはならない」というプレッシャーがあり、同時に警察上層部からは「責任は取るから身の危険を感じたら発砲して構わない」というような指示もあるのかもしれません。

2つ目は、黒人独特の言語やカルチャーについて、白人警官が、正確に理解できていない、そこで多くの局面でコミュニケーション上の誤解が起きるということがあると思います。ルイジアナの事件では巨漢の被害者に対して白人警官の2名が「馬乗り」になっていたわけですし、ミネソタの事件では被害者は従順であったように見えます。それでも、言語面のコミュニケーションが上手く行かず、彼らなりの「反抗姿勢」の「危険度」が正確に伝わらなかった、そこで恐らくは「殺意と誤認される」ということがあったのだと思います。

3つ目は銃の存在です。ルイジアナの事件では、被害者は「お尻に銃を下げて」いた中で、もみ合っているうちに「奴の手が銃に届いたら殺される」という「身の危険」を感じたわけです。そしてミネソタの事件でも、被害者は「自分は銃を携帯している」と口頭で言っています。そこで免許証を出そうとお尻に手を回したら瞬間的に殺されてしまったわけです。銃の存在が前提となっており、警官は「一瞬でも身の危険を感じ」たら「相手を無力化せよ」と徹底的に叩き込まれているからです。銃社会が前提になっての事件という面は大きいと思います。

4つ目は、ビデオの問題です。ルイジアナの事件も、ミネソタの事件も動画が、それも実に生々しい動画が出回っています。そのために、憤激した人間が毎晩のように町に繰り出してデモをしており、その中で偶然に病的な帰還兵がとんでもない凶行に走ったわけですが、いずれにしても動画が簡単に出回るということの弊害は議論されていいと思います。ただ、警官による射殺なり不当な取り調べに抗議しようとした人は、必ずスマホで動画を撮ってしまうことは止められない中で、難しさはどうしてもあります。

5つ目は議論が足りないという点です。BLMもデモをするのではなく、最も強硬な白人警官や、それこそセラ・ペイリンなどを引っ張ってきて、徹底的に討論をすべきだと思います。この問題は、大変に難しい問題ですが、最後は双方が納得するような合意に達しなくては対策にならないからです。

image by: rmnoa357 / Shutterstock.com

 

『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋
著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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