Windows95の設計にも携わった世界的エンジニアでメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者である中島聡さんが、先日のソフトバンクによるARMの買収について持論を展開。カリスマ経営者である孫正義社長だからこそできた買収、と語った上で、「両企業にとってメリットのある買収にはならないかもしれない」と疑問を呈しています。
ソフトバンクによるARMの買収
ソフトバンクによる ARM Holdings の買収が発表されましたが、この報道を見て最初に感じたのは、これは孫正義というオーナー経営者がいるからこそできた買収だということです。
多くの人が指摘しているように、ARM は素晴らしい会社ですが、しかし、3兆円という価格が適切かどうかという判断は非常に難しいところです。そろばんをはじいただけでは、決してこの数字にはなりません。合議制ではどう考えてもこんな買収は出来ないし、サラリーマン経営者にも出来る話ではありません。創業者であり、カリスマ的なリーダーシップを持つ孫さんだから出来ることです。
ちなみに、私は何年も前から、「Qualcomm は ARM を買収すべき」と指摘して来ましたが、Qualcomm が買収するのと、ソフトバンクが買収するのとでは意味合いは大きく違います。
Qualcomm のビジネスは、ARM と同じく、IP (知的所有権)をライセンスするというものなので、相性はとても良いと言えます。Android デバイスに広く採用されている Qualcomm の Snap Dragon には ARM コアが採用されているので、それも大きなプラスです。
唯一のマイナスと言えば、モバイル業界での Qualcomm の強さにうんざりしている会社が数多くあるため、Qualcomm による買収が、ARM のビジネスにとってマイナスになる可能性ぐらいでしょうか。
一方、ソフトバンクは基本的にサービスの会社なので、ARM のビジネスの親和性が必ずしも良いとは思えません。ソフトバンクがモバイルサービスを運営する上で、デバイスはコモディティ化することが一番なので、ARM のビジネスとは利益相反になります。
孫さんが ARM を買収したかった理由は分からないでもないのですが、果たしてこれがビジネス的に両者にとってプラスになるかどうかは、いささか疑問です。ARM の優秀な技術者が逃げてしまう可能性も十分にあるし、ARM の経営陣からハングリー精神が消えてしまう可能性もあります。そのあたりの「細かなこと」を担当者たちが一生懸命に考えて解決しようとするがうまくいかず、孫さんに怒鳴られる、そんな姿が目に浮かびます。