真田丸『第39話』解説。「幕府」という言葉に隠された驚きの事実

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NHK大河ドラマ『真田丸』を放送直後にワンポイント解説する人気連載シリーズ。今回は、時代劇などでもよく使われる「幕府」という言い方について。私たちが普段疑問を持つこともなく言ったり聞いたりしている「幕府」という言葉、実は「かなり気取った言い方」らしく、当時はほとんど使われていなかったとか。ほとんどの人は知らなかったであろう驚きの事実、さっそく詳しく見ていきましょう。

今回のワンポイント解説(10月2日)

「慶長8年(1603)、徳川家康は征夷大将軍に任じられ、江戸に幕府を開いた…」とは、ナレーションなどでよく使われるフレーズだ。でも、このフレーズ実はちょっと不自然

そもそも「幕府」とは、軍陣における将軍のテントのこと。日本では近衛府のことを「幕府」と呼び、 右近衛大将だった源頼朝が征夷大将軍に任じられたことから、頼朝の政権も「幕府」と呼ぶようになったとされている。ただし、これはかなり気取った言い方で、一般的ではない。当時の史料では、単に「鎌倉」と呼んでいることが多い。公家たちは「鎌倉が難題を持ちかけてきた、どうしよう」みたいな言い方をしている。

その頼朝が征夷大将軍に任じられたのは、平家や奥州藤原氏を滅ぼして、武家政権としての実態を確立したあと。しかも、朝廷との政治的駆け引きの材料として、ほどなく将軍職を返上してしまっている。頼家が頼朝の跡をついだ時に、朝廷から認められた称号は「日本国惣追補使・惣押領使」であって、「征夷大将軍」に任じられるまでにはしばらくかかっている。もちろん、この間、鎌倉政権(つまり幕府)が閉店していたわけではない。武家側にとって大事だったのは、頼朝や頼家が「鎌倉殿」、つまり御家人たちによって推戴される鎌倉の主という立場にあったことだった。

もともとがこんな具合だから、征夷大将軍に任じられたからといって、何か特別な資格が生じるわけではないし、特定の形をもったシステムを開設するわけでもない。ましてや、自分の城や御所に○○幕府という看板を掲げるわけでもない。「徳川幕府・江戸幕府などという言葉がそもそも当時は使われていなかったのだ。

だから、淀殿が「家康め、臣下の分際で、江戸に幕府を開くとは何ごとじゃ」と目をつり上げるのは滑稽、ということになる。さすがに、今年の大河は考証がしっかりしているので、淀殿も目をつり上げないし、有働さんもナレーションで言わない。

要するに、頼朝の場合も家康の場合も、軍事司令官として全国の武士たちを実力で従わせている、という現状を朝廷側が追認したものが、征夷大将軍の肩書きだったことになる。

あ、ちなみに以前、鎌倉へ行ったとき、「鎌倉幕府」と大書された黒塗りの表札みたいなのを売っていたので、買ってきて自室に掛けています。好きですね、こういうお土産は(笑)。(西股総生)

今週のワンポイントイラスト
徳川と豊臣、どちらにつくか悩む諸大名と、春ときり、どちらがいいか悩む信繁。あれ、この構図どこかで…!?(みかめ)

 

文・絵/TEAM ナワバリング(西股総生・みかめゆきよみ)

ナワバリスト(城郭研究家)の西股総生率いる、お城(主に山の城)と縄張りを愛する3人組

 

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