真田丸『第40話』裏解説。大坂と江戸に権力が並ぶ「二重公儀体制」

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NHK大河ドラマ『真田丸』を放送直後にワンポイント解説する人気連載シリーズ。今回は、「二重公儀体制」について。豊臣家と徳川家、日本にふたつの政権が併存したという「二重公儀体制」については疑問を唱える声もあるようですが、著者の西股総生さんは、秀吉が信長から力を引き継いでいく過程を全て見ていた賢い家康が「秀吉よりも上手くやろう」として築いた体制だったのではないかとの見方を示しています。

今回のワンポイント解説(10月9日)

二重公儀体制関ヶ原合戦から大坂の陣にいたる戦間期を、最近の研究では、こう呼ぶことが多い。つまり、豊臣家はいまだ中央政権としての実態を完全に失ってはおらず、大坂と江戸に二つの権力が並び立っていた、という考え方だ。実際、豊臣系の諸大名は、いまだ秀頼に対して臣下の礼を取りつづけていた。

本来の政権が上方にあって簒奪による軍事政権が関東に並立しているわけだ。この並立状態は、鎌倉幕府と同じ。室町幕府だって政権の所在地が一緒だっただけで、権力の焦点が二つあった、という意味では同じ。ある意味、日本の武家政権にとっては通過儀礼のようなものともいえる。

さて、豊臣家(正しくは羽柴家)の本領は摂津・河内・和泉で、本拠(戦略拠点)は大坂城。「天下」はもともと京都だったから、全国政権としての「本来の所在地は伏見。秀頼が成長して関白に任じられれば、おそらく伏見城に入ったことであろう。

一方、徳川家の領地は関東で、本拠(戦略拠点)は江戸。でも、征夷大将軍を秀忠に世襲させた家康は、大御所として駿府城にいた。かつて秀吉は、豊臣家(羽柴家)の家督と関白職を秀次に譲って、自分は肩書によらず実力で全国の大名を切り従える方向に進んだ。家康も同じように、徳川家の家督=征夷大将軍という形を作って秀忠に譲ったわけだ。家康にとっての駿府城は、秀吉にとっての伏見城と同じ位置づけだったとわかる。

では、なぜ駿府かというと、家康が大坂城や伏見城にいたのでは豊臣家の権力を簒奪している様子がミエミエだから。これでは、秀頼に対して臣下の礼を取りつづけている、豊臣系諸大名の反発を招くばかり。そこで、「本来の」中央政権としての豊臣家には表向き、手を付けずに、あくまで徳川家は徳川家ですよ、というスタンスをとりながら、自身は実力によって全国の大名を従わせる方向に進む必要があったわけだ。

だから家康は、関ヶ原の前哨戦で焼失した伏見城を再興するとともに、洛中には徳川家の宿所として、新たに二条城を築いている。「本来の」中央政権である豊臣家の執政としては伏見城を必要とし、「徳川家は徳川家ですよ」という簒奪者の立場では、二条城が必要だった、ということだろう。

このあたり、秀吉が戦略上の必要から京阪神地域に次々と城を築いていったのと、よく似ている。 家康はかつて、小牧・長久手の戦で信雄と結び、秀吉が織田家の天下を簒奪してゆく様子をまのあたりにしていた。「秀吉よりもうまくやろう」と思っていたんだろうな、きっと。(西股総生)

今週のワンポイントイラスト
とうとう幸村になった信繁!ここからはフィクションもガンガン取り込んでいく…!? (みかめ)

 

文・絵/TEAM ナワバリング(西股総生・みかめゆきよみ)

ナワバリスト(城郭研究家)の西股総生率いる、お城(主に山の城)と縄張りを愛する3人組

 

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第 1 部「今こそ語りたい第2次上田合戦と大坂の陣」…西股総生

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