もう一つ、調理師会の話。 日本には各地に調理師会という組織がある。
よく聞く名前では、「あいおい」のマスターが所属していた「松和会」や関西調理師の「大京会」、「萬屋調理師会」などが有名である。
大規模な旅館だと、調理場に10人以上のスタッフが必要なので、こうした調理師会にお願いして料理人を送ってもらうことが多い。 ほとんどそう。
こうした調理師会に所属している料理人というのは、同じ会が契約している宿や料理店などをあちこち行ったりしている。 それは別に悪いことではない。
実際「あいおい」のマスターも、「稲取銀水荘」の追い回しから始まり、鎌倉桜花亭(現在はない)、「銀座さくろ」「日本橋鴨川」「沼津石亭」「鴨川グランドホテル」「つきじ植むら」と渡り歩いている。 で、最後の「つきじ植むら」で親方に次ぐ煮方を長年務めていたわけである。
前号で紹介した「調理師会がガンだ」というある人の意見に関しては、少し乱暴な気もするのだが、でも、そう言いたくなる気持ちはわかる。
親方の給料が高い、とういうのはさておき、一番問題なのは、親方と宿の女将や社長などの関係がうまくいかなくなって、親方を変える場合、親方の下で働いていた料理人が全部辞めてしまうことである。
同じ調理師会のなかでの変更、ということなら違うのだろうけども、あまりそういう話は聞かなくて、調理師会ごと変えちゃう、というような場合は、必ず下で働いている人も一緒に辞める。かわりに雇う親方には、煮方から追い回しまで全員まとめてくっついてくる。
皆さん、案外こういうことって知らないでしょう?
いきなり調理場全員が辞めたら営業もできなくなってしまうので、おいそれと親方を辞めさせることはできない仕組みな訳だ。 これをもって「ガン」といいたいのであろうことは察しがつく。
こういうことを考えても、調理師会の縛りを受けず、少数精鋭の料理人と宿の経営者が一体となって料理を提供できるというのは、やっぱり、規模が小さな宿でないと難しいことなのである。
以上、宿の料理場事情の解説であります。 知っておいても損はないと思う。
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『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』より一部抜粋
著者/飯塚玲児
温泉業界にはびこる「源泉かけ流し偏重主義」に疑問を投げかけた『温泉失格』の著者が、旅業界の裏話や温泉にまつわる問題点、本当に信用していい名湯名宿ガイド、プロならではの旅行術などを大公開!
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