【ネタバレ注意】米在住の翻訳家が「シン・ゴジラ」で驚愕したこと

 

それに対してこの映画に描かれる日本の人々は、「日本という国のありかた、「日本ができることに対して絶望している。

正体不明のモンスターが東京を破壊していても、政府はなかなか動けない。組織が硬直しているので、会議ばっかりやってて初動が遅いし、本質的な問題をとらえて決断できる人がいない。能力のある若手は苛立つが、なかなか力を発揮できない。そして自衛隊はわりとあっさり壊滅してしまう。政治家や官僚たちはアメリカの圧力の前に、首都を核攻撃の標的にされてもなすすべもない。

官民共同体の力を集めた決戦であやうくゴジラに打ち勝っても、東京駅の真ん前に黒い巨大なカタマリとしてゴジラは残り、カタルシスの少ない勝利なのである。これが素晴らしい

たぶん、この無力感や自信のなさを、アメリカの観客はとても居心地悪く感じると思う。アメリカンにとっては、自国の無力さを思い切って描くこの姿勢は「自虐的」としか捉えられないのではないかと思う。でもそれがよいのだ。

そう言われたら、アメリカンたちに教えてあげればいいのだ。バカだなあ、それは内省というんだよ、と。やみくもに「俺についてくれば強いアメリカがカミングバック」なんてメッセージを信じたがる某大統領候補の支持者たちよりは、壊れた都市を前に自国とおのれの無力さをみつめる、この映画の主人公たちのほうが百億倍くらい建設的だからだ。

2.登場人物の多いわりに静的な画面が本当に日本らしくて、面白かった。

この政治家たちのダメさと、硬直したシステムを面白おかしく描く静かな演出は、アメリカの観客にもちゃんと伝わっていて、会議や会見の場面でもしっかり笑いが起きていた

みんな同じように表情の乏しい政治家や官僚はリアルで、「巨災対」の地味で実直なはみ出し者たちにも、かなりのリアリティを感じることができた。

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