1994年、すでに日本でVRを活用している事例が存在していた

2016.12.10
by まぐまぐ編集部
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「Playstation VR」の登場によって今注目を集めているVR(バーチャルリアリティ)。前回の記事で「VR元年は27年も前」という知られざるVR史を語ってくれた、日本バーチャルリアリティ学会会長の廣瀬通孝さん。まぐまぐの新サービス「mine」で無料公開中の、廣瀬通孝さんの記事では、その続編として90年代の時点でVRを取り入れた試みを行っていた「子どもメディア研究会」という団体を紹介し、その画期的な活動を高く評価しています。いったい、どのようなVR活用事例があったのでしょうか?

社会人の部活‐子どもメディア研究会  [世界VR史]

今回はちょっと変わった話題を紹介する。

我々はそれを「社会人の部活」と呼んだ。「子どもメディア研究会」とは、NHK・一色伸夫プロデューサ(当時)が発起人となり、当時の新進気鋭のメディア研究者やアーティストを集めて組織した子どもとメディアに関する研究会であった。いつごろから開催されていたかは正確な記録がないが、1990年代のはじめごろから、NHKの放送センター内で1-2ヶ月に一度ぐらいの頻度で開かれていた。メンバーは、今思えば豪華で、現在カリフォルニア工科大学教授(心理学)の下條信輔、メディアアーティストの岩井俊雄などの顔が並んだ。その前身は、東大小児科・小林登教授を中心とした母子相互作用の研究会であり、1970年代の末までさかのぼる。

バーチャルサッカーの様子

バーチャルサッカーの様子

この研究会の活動内容は多岐にわたり、全てをまとめることは難しいが、中でも特徴的な試みのひとつが、「夢のテレビ」であった。これは、入院中の国立小児病院の子どもたちに、VRなどの高臨場感メディアで外の世界の体験を届けようという試みであった。最初に行った実験は、アークヒルズの屋上に設置したパソリンク(50GHZ帯による画像通信機)を利用した小児病院への画像通信実験であった。当時はインターネットによる動画通信など思いもよらなかった。小児病院に届けられたのは、アークヒルズ屋上からの眺めや、CGで作られた火星の表面映像(ちょうどバイキングが着陸した直後で、NASAの研究者が著者の研究室に置いていった)などであった。

アークヒルズ屋上に設置されたパソリンクアンテナ

アークヒルズ屋上に設置されたパソリンクアンテナ

 

小児病院には比較的重度の入院患者が多い。大人であれば、長期入院してもそれほど大きな影響はないかもしれないが、発育中の子どもが学校にも行けず、病院に縛り付けられては、心の発達に大きな問題をもたらすことになりはしないか、と小児病院の先生方は心配したのである。VRなどを使って、遠足や運動会などのワクワクドキドキ体験を疑似体験させたらどうだろうという試みであった。

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