Aさん宅を訪問したのは、若いサラリーマン風の詐欺師であった。
その詐欺師は、土地を持っていることを確認すると(そんなこと、対面しなくても登記簿をひけばわかるのだが。)大きな図面を広げて、こう説明した。
「地方も過疎化が進み、住人もさほど多くはいないのですが、この度、ショッピングモールを建設し、住人を集めようという計画がある。」
「この図面は中心的な建物のものだが、Aさんの土地は、ちょうど中心部に位置するから、譲ってほしい。」
という。そして、
「持っていてもお金だけがかかる代物だから、できれば当時払った額の半額くらいで買い取らせてくれないか?」
と続ける。
Aさんとしても、息子夫婦や娘夫婦に将来負担をかけたくないという思いがありまた、不要であった土地で少なからずのお金がもらえるというのは魅力的な提案であった。
ただ、記憶の中にあるあの斜面をどうやったらこの図面のようになるか疑問があった。
その疑問はすぐに解消された。詐欺師は、パソコンを取り出し、東日本大震災で被災した東北自動車道(高速道路)が驚くほどの短期間で復旧補修される様子を見せた。そして、日本の土木工事がいかに進んでいるかを力説したのだ。
そして、詐欺師は必要な書類をどのように取るかを説明し、最後にこう続けた。
「この話はごく限られた方しか知りません。時折、お金を払う話ではないのにご家族に相談してからという方がいますが、相談はつまりは私どもからすれば土地の権利者でもない方に情報が流出してしまうことも意味しています。その場合は、土地は今の相場で買い取るようになるので、数万円になってしまいます。ご家族であっても内密にお願いします」
Aさんは、この口止めで、この話を誰にも相談せずに進めることを決め、印鑑証明を取ったり、自分の戸籍謄本を取ったりした。
そして、必要書類が揃ったところで連絡し、すぐに契約を交わすことになった。
日本人の多くは契約書の文面を細かく確認しない。
特にこの年代の女性は、契約内容自体にアレルギーがあり、それを読み上げることすら止めさせてしまう傾向が強い。
Aさんは、大まかな契約の意味を聞いて、必要な箇所に押印をしたが、押印が苦手であり、しっかりと印影が出ないなどがあったため、判子自体を詐欺師に預けて、押印をしてもらった。
そして、契約書の控えをもらい、手土産を詐欺師にもたせて見送った。
問題が生じたのは、それから半年後だ。
突然、請求書が来て、土地の購入代金を支払わないと裁判を起こすとあった。
慌てて、契約書を確認すると、2通目の契約書は近くの土地を購入するという契約書であった。
請求書は、契約を交わしたはずの会社とは全く違う会社であった。
しかし、2通目の契約書の相手の会社は、確かにこの会社だった。
「どうしよう・・・」金額は300万円であった。
定期の1つを解約すればすぐに支払えるお金である。
結局、Aさんは定期を解約し、支払ってしまった。
黙ったまま何も語ろうとはしなかったが、このショックからか、内向的な性格になってしまい、独り言や周囲への警戒などが激しくなり、心配した家族が私に相談をしてくれたことから、この詐欺被害が調査により発覚することとなった。