SONYも脱帽。先見の明で8ミリビデオ時代を制したスゴ腕の町工場

jog20170130
 

色とりどりの砂糖菓子かと思って拡大してみると、何とそれは「歯車」。直径1ミリにも満たないという驚きのパーツを開発したのは「樹研工業」という、一見どこにでもありそうな、愛知県に本社を置く中小企業です。しかしこの会社、普通の企業とは異なる「経営哲学」を持っており、その結果、現在では世界に名を馳せる有名企業となっています。無料メルマガ『Japan on the Globe-国際派日本人養成講座』で詳しく紹介されています。

100万分の1グラムの歯車

米粒を15センチほどに拡大した写真がある。その上に数ミリほどの赤や青の金平糖のようなものが、いくつか乗っている。これが100万分の1グラムの歯車である。ちゃんと歯が5枚ついている。直径が0.147ミリというから、10個並べても1.5ミリに届かない。

この歯車が2万個入ったケースを肉眼で見ても、チリが入っているようにしか見えない。だから「パウダーパーツ」と呼んでいる。

小さすぎて、用途はまだない。いずれ米粒くらいの大きさで血管の中を掃除したりする医療用マイクロマシンなどに使われるかもしれない。まだ売れる見込みがないのに、2億円もの開発費をかけてこんな極小歯車を開発したのは、樹研工業という社員70名、年間売上げ28億円の中小企業である。

「先回りの樹研」

樹研工業は「先回りの樹研」と呼ばれることがある。ソニーが8ミリビデオを開発した際に、購買担当が樹研工業の松浦元男社長を呼んで聞いた。

当社で今度、手のひらサイズの8ミリビデオカメラを作るんだが、そちらで部品を作ってみるか。

松浦社長は「それはこんなものでしょう」と、あらかじめ試作しておいた歯車を差し出した

えっ! なぜそれを? どこから話が漏れたんだ!?

確かな話があったわけではない。ソニーなどのメーカーはビデオデッキやビデオカメラを小さくしたがっているという話を噂で聞いていたので、先回りしてサンプルを開発しておいたのだ。担当者のびっくりした顔を見たときは痛快だった、と松浦社長は思い出す。この部品は100%、樹研がソニーに供給することになった。

世界にないものを作らねば意味がない

それから松浦社長は「どうせやるならとことんやってやろう」と1万分の1グラムの歯車を作って見本市に出した。見る人すべてが驚いて、「すごいな。1万分の1グラムか」と言ってくれるが、そこから先の反応がない。「ようやったわ。誉めてやろう」という程度のお義理なのだ。

「こんちくしょう。こうなったら10万分の1グラムを作ってやる!」と、6年かかって、なんとか成功させた。金型を作る工作設備から億単位の金をかけて開発した。見本市に出すと、「へー。こんなに小さいのか」と驚きから感動のレベルに変わった。海外企業からの問い合わせも来るようになった。

その次の目標として、100万分の5グラムの歯車を作ろうと、社員に言った。すると金型をつくる若い職人が反対した。

社長、そんなのダメだよ。そんなところで妥協されたんじゃあダメだ。100万分の5なら他でもできる。そんなことになったら俺の顔がたたねえ。100万分の1の歯車を作りましょう。

よし、わかった、と松浦社長はすぐに決断した。100万分の5を作っても、他社が100万分の4を作ったら、まったく意味のないことになってしまう。世界にないものを作らねば意味がないのだ。

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