自宅で自分らしく死ねる。ある若き医師が起こした在宅医療革命

 

患者も医師もサポート~“在宅医療PA”とは?

だがPAにはもっと大事な仕事があるという。やまと診療所のPA第1号、針生彩子は「患者さん側に立てるスタッフだと思っています。医師の負担を取るというだけでなくて、患者さんの希望を聞きながら、必要な治療をしていくという方が強いですね」と言う。

PAは、患者の希望に沿った医療の体制を組むコーディネーターのような役割もする。

板橋区内にある板橋中央総合病院を針生が訪ねた。腹部のがんで入院している鈴木京子さん(82)。自宅で生活したいと望み、PAの針生はその準備にやってきたのだ。針生の細やかな心遣いに京子さんも安心した様子だ。

終末期の患者が自宅で生活する場合、医師の他に訪問看護師やヘルパーなどのサポートが必要となる。通常はそれぞれが患者から話を聞き、その人に合ったプランを立てている。

一方、やまと診療所ではPAがその中心になって患者の要望を聞き取る。その情報をもとに、看護師やヘルパーなど外部のスタッフとも連携し、1つのチームとして患者を支えていくのだ。

京子さんが退院したその日、すぐさま自宅を針生が訪ねた。患者や家族にわかりづらい、医療や介護の煩雑な事務手続きをサポートする。簡単な問診を行い、その内容を担当の医師にメールで送信。初めての患者でも、どんな病状なのか、飲んでいる薬や食事の様子も分かるので、医師も心の準備ができるという。

針生が着いてから1時間後に医師が到着。初めての患者でもPAが関係性を築いているので、医師はスムーズに診察を行える。

患者と家族を、医療や介護のチームとつなぐ。PAは在宅医療の要となる存在なのだ。

職歴、経験関係なし~在宅医療PA育成術

PAを志望してやまと診療所に入ってきた新人たち。前職は不動産関係、ペットショップ勤務……と様々だ。やまと診療所では独自のプログラムを作成し医療分野の経験がない人を一から鍛えPAに育て上げている

まずは医療知識を徹底習得。PAは医師や看護師の資格がないため、医療行為はできない。だが器具の準備はできる。カテーテルや点滴、人工呼吸器など、300種類以上の器具の取り扱い方を学んでいく。

週1回は医師による講義も。在宅医療で多く見られる病状や薬剤の知識のほか、保険や診療報酬の仕組み、さらに介護の知識なども身に付ける。

続いてはコミュニケーションを武器にする研修。患者と心を通わせるにはコミュニケーション能力が不可欠。外部から話し方の講師を招いて徹底指導。やまとでは、PAに最も必要なのはコミュニケーション能力だと位置づけている。

そして、とにもかくにも現場で学ぶこと。先輩PAに付いて現場のイロハを学び、医師の仕事を少しずつフォローしていく。

こうした研修を3年間積み重ねようやく一人前のPAになれるのだ。

在宅医療PAという仕事について、スタジオで安田はあらためてこう語っている。

「命に関わる厳しい現場にいて、家族や本人とコミュニケーションを取り続ける。周りの多職種と調整をし続ける。そこに自分の価値を発揮するくらいやり続けなければいけない。タフな現場にい続けるということと、自分自身が常に成長しなければいけないという意味で、PAは真の医療人だと思っています」

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