O:今後どのような事業展開が望まれるか?
まず、今後は上場企業として、株主から安定的な成長が求められますし、加えて事業上のリスクを低減するという意味からも、弱みである事業ポートフォリオの偏りをなくして『ほぼ日手帳』以外の事業の柱を早急に立てる必要があるでしょう。
『ほぼ日刊イトイ新聞』という月間アクセスが数千万に及ぶ良質のメディアを運営しているのですから、インターネット広告を導入して、一つの柱とすることも考えられます。ただ、広告が入るとメディアの性質が変わって、これまで熱狂的に支持してくれていたファン顧客が離れていくことにもつながりかねません。短絡的に広告を導入すれば売り上げが上がるというものでもなく、これまで18年間広告を柱にしてこなかったことを考えれば、『ほぼ日刊イトイ新聞』という「コミュニティ」の雰囲気を変えないためにも、今後も広告を挿入しないというポリシーは貫かれるかもしれません。
そこで、今後は、上場による信用力のアップで販路を拡大したり、糸井氏以外のヒットコンテンツを作り上げて『ほぼ日刊イトイ新聞』の魅力をアップしたり、広告モデルではなく、無料の読み物が気に入ればよりボリュームを増した有料のコンテンツを販売したりするなど、地道な活動に取り組む必要もあるでしょう。
T:順調に成長を続けてきたほぼ日に死角はないのか?
上場まで順調に成長を続けてきたほぼ日ですが、死角はないのでしょうか?
まず心配されるのは、上場によってほぼ日の良さが失われないかです。これまでほぼ日は、良くも悪くも糸井重里氏の「個人商店」として糸井氏のカラーが色濃く反映されていました。上場後、多くの株主が入ってくれば、糸井氏の考えに共感する者ばかりとは限りません。キャピタルゲインを得るために短期の成長を強く求める声が大きくなり、ほぼ日が売り上げや利益の数字だけを追い求めるような企業に変貌すれば、これまでほぼ日を支えてきたファン客が離れていき、却って業績の悪化を招くことも考えられます。
また、ほぼ日は財務諸表を分析すると、無借金であり、現金残高も12億円と企業規模に比べてキャッシュリッチな優良企業といえます。今のところは糸井重里氏と娘の池田あんだ氏で過半数を超える株式を保有していますが、株式を公開する今後は敵対的な買収で会社を乗っ取られないような対策も怠らないようにしておかなければならないでしょう。
企業にとって株式上場はもちろんゴールではありません。より社会の公器としての性格を強めて信用が向上すると共に、果たすべき責任も比較にならないくらい高まってきます。株式上場によって、ヒト・モノ・カネという経営資源を調達しやすくなったほぼ日が、今後どのような進化を遂げていくのかに注目が集まります。
image by: ほぼ日刊イトイ新聞
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