杉尾秀哉議員が3月15日の参議院予算委員会で麻生財務大臣に「籠池氏を知っているか」と聞くと、麻生大臣は「珍しい名前だが、覚えていません」と空っとぼけた。
籠池夫妻が商品券か札束かを持って口利きを依頼してきたが突き返したという鴻池祥肇議員は麻生大臣の盟友だ。籠池氏は、鴻池氏を通じて麻生氏と面識があったと言っている。
財務省の体質も問われている今、麻生大臣にとっても他人事ではない。
安倍夫妻が一時は肩入れした森友学園の教育実態によって、安倍政権の思想的本性が視覚化されたことは、これまでPR戦略で保ってきた支持率にじわじわ影響してくるだろう。
教育勅語を暗誦し、軍歌を合唱している幼稚園児が「安倍首相ガンバレ」などと声を合わす。北朝鮮など全体主義国家の風景そのものではないか。
森友学園に好意的に対処してきた大阪府の松井知事にしても、責任逃れに躍起だ。小学校を認可しない方針に転じたのは、自らに世間の批判が集まるのを恐れているゆえだ。
安倍総理や鴻池議員に見捨てられ、松井知事にも裏切られたと感じた籠池氏は「尻尾切りはやめてほしい」と訴えた。まさに「尻尾切り」であろう。
野党から籠池氏らの参考人招致を迫られた自民党は「民間人だから」「話が面白いからといって招致はできない」などと奇妙な理屈で渋る。だが、いつまでも拒んでいると、世間の疑惑はいっそう深まるだろう。
森友問題は官邸と自民党にとって、早急に沈静化させねばならない重大事となった。この問題がメディアに取り上げられ続ける限り、今後、折に触れて、2015年9月3日から3日間、安倍首相が何をしていたのかも大きな問題として蒸し返されるに違いない。
- 9月3日:財務省の迫田英典理財局長(現国税庁長官)と官邸で面談。
- 9月4日:大阪入りし、読売テレビの番組に出演した後、大阪市北区の海鮮料理店「かき鉄」で、故冬柴鉄三元国土交通相の次男、冬柴大氏らと会食。冬柴氏は元りそな銀行行員だが、森友への融資と関係があるかどうかは不明。
- 9月5日:安倍昭恵夫人が塚本幼稚園で講演し、新設小学校の名誉校長を引き受けた。
この3日間、偶然にしては森友と結びつくことが集中しすぎている。とくに9月4日は、午前10時から近畿財務局9階会議室で森友学園の小学校に関し、建設会社の所長、近畿財務局の統括管理官、大阪航空局調査係が何ごとかを話し合った。また同日、国交省から森友学園に6,200万円の補助金を交付することが決定している。
国有地払い下げの事務を統括する迫田理財局長を安倍首相がこの時期に呼んだことについて、森友と関連づけられるのは、仕方がないのではないか。働きかけなどしなくとも、安倍首相が少しでも話題にするだけで十分な圧力になるに違いない。
「国のために命を懸けるなんてことは馬鹿なやつがすることだと言う教師もいる」と戦後教育を批判していた安倍首相が、国のために命を懸けよと説く「教育勅語」を幼稚園児に暗誦させる森友学園を好ましく思っていたことは間違いないだろう。国会で「幼稚園児に教育勅語を暗誦させてもいいと考えているのか」とただされても、答えようとしない。
安倍首相との関係が取りざたされることによる政権へのダメージを食い止める手段として、有力な政治家、あるいはその周辺が動いた可能性は否定できない。
一度は裏切られたと思った政治家たちに、籠池氏は、再び頼っているようにも見える。3月15日に行なわれることになっていた外国特派員協会の記者会見は籠池氏側の都合で延期になった。この背後に、籠池氏の口を怖れる勢力からの何らかの働きかけがないとはいえまい。
真相はいまだ闇の中だ。籠池という特異な人物だけの力で、国や地方自治体がこれほど組織ぐるみで動き、発覚するや口裏を合わせるように不誠実な釈明を繰り返すはずがない。黒幕は誰か。どういうメカニズムが働いたのか。肝心なところが見えないまま、謎はますます深まっている。