森友学園問題が浮き彫りにした、ファーストレディの見えざる権力

 

総裁に返り咲き、総選挙で政権を奪回してその年の12月に第二次安倍政権が発足すると、安倍首相は、第一次政権で昭恵夫人につけた秘書役の復活を思い立った。好奇心旺盛でアクティブな妻の個性を生かし、ファーストレディとして大いに活動してほしいが、そのためには補佐が必要、という考えだったのだろう。

第一次政権ではその役どころを外務省を退官したばかりの宮家邦彦氏一人が引き受けた。非常勤の一般職国家公務員で、官職名は「首相公邸連絡調整官」だった。宮家氏といえば、フジテレビの新報道2001などで、安倍政権寄りのコメントをして重宝がられている人物である。

官邸内に専用の執務室が設けられ秘書役たちが着任したのは2013年6月のことだ。もちろん、総理夫人の「専用秘書室」のようなものが設置されるのは過去に例がないであろう

なぜ、公務にあたるべき国家公務員を、安倍首相自ら「私人」と主張する昭恵夫人の秘書のような任務にあたらせるのか。そのこと自体が異常であるのはさておき、安倍首相には個人的な思想信条を満足させるため、総理の立場ではできないことを夫人にさせようという狙いがあったのではないだろうか。

ひょっとしたら、2014年4月25日に昭恵夫人が塚本幼稚園で講演したのも、2012年9月に安倍首相が果たせなかった約束を代わりに実行させるという意味合いがあったのかもしれない。

初めて同幼稚園を訪れた昭恵夫人が、園児に教育勅語を暗唱させる愛国教育に接し、いたく感激しただろうことは、その後の行動が証明している。

最初の訪問と同じ年の12月6日と翌2015年9月5日、昭恵夫人は二年間で三度にもわたる講演を、塚本幼稚園で行なった。とりわけ15年9月の講演は重要で、この日に昭恵夫人は新設が予定される小学校の名誉校長に就任した。

この森友学園に対する尋常ならざる思い入れを、単に、昭恵夫人だけの暴走と片づけるわけにはいくまい

昭恵夫人には、この学園の実践している教育を全国に広めたい、幼稚園だけで途切れず、小学校でもこのような教育ができれば素晴らしい、それは夫も共鳴してくれるはずだ、という強い思いがあっただろう。

国会の証人喚問で籠池理事長が明らかにした内閣総理大臣夫人付、谷査恵子氏からのFAX文書は、昭恵夫人が小学校の名誉校長に就任して間もない2015年11月15日のものである。つまり森友学園と昭恵夫人が蜜月関係の頂点にあった頃といえる。

森友学園が「内閣総理大臣夫人付、谷査恵子」宛の封書で依頼した内容は概ね、次のような内容だった。

定期借地契約が10年間なのを50年契約にしてほしい

月227万円の賃料は高すぎるので、半額程度にしてもらいたい

コンクリート片や鉛などの汚染土を除去するために立て替えた工事費を平成27年度予算で返してくれるよう言ったが、28年度に遅れるというのはなにごとか

これに対して谷氏はFAX文書で「財務省本省に問い合わせ国有財産審理室長から回答を得ました」としたうえで、定期借地の期間延長は難しいと回答した。

しかし、「撤去に要した費用は、第6条に基づいて買受の際に考慮される」と、いずれ森友学園が土地を買い取るさいに、地下埋設物撤去費用に相当する金額を値引きすることが示唆されている。

また、汚染土除去費用については「一般には工事終了時に清算払いが基本であるが…平成27年度の予算での措置ができなかったため、平成28年度での予算措置を行う方向で調整中」と書いていた。

本来なら、実際に森友学園が業者に支払った費用を、「清算払い」するのがルールだが、予算がつきしだい国から学園に支払うという特別扱いのお知らせをしたわけである。役所が「調整中」という言葉を使うのは、ほぼOKの場合だ。実際、2015年末までかかった工事の費用として翌2016年4月に、1億3,176万円が国から振り込まれた。

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