森友学園問題が浮き彫りにした、ファーストレディの見えざる権力

 

安倍官邸や自民党は、このFAX文書を「ゼロ回答だから問題はない」と言うが、そうではない。官邸に詰めている昭恵夫人の秘書役からの問合せだからこそ、国有財産審理室長、田村嘉啓氏はこれほどまでに丁寧な回答をしたのであり、買い取り時の値引きや工事費用の早期支払いまで示唆したのである。

田村氏にしてみれば、この案件が昭恵夫人、すなわち安倍総理にかかわるものだという印象を持ったに違いなく、そのことは彼の上司からそのまた上司へと伝わっていったと推察される。総理関連の案件というだけで独り歩きすることは十分、考えられるであろう。

このFAXから約4か月後の2016年3月11日、籠池氏は「小学校建設用地から新たな地下埋設物が見つかった」と、近畿財務局にねじ込み、3月15日には上京して田村国有財産審理室長に「値下げ」を談判している。

いわば「総理案件」の当事者が「善処」を求めて乗り込んできたのである。田村室長の上司である国有財産業務課長はもちろん、理財局次長理財局長まで話は伝わっただろう。

当時の迫田英典理財局長(現国税庁長官)は参考人として国会に呼ばれたさい「全く報告を受けていない」と言っていたが、ありえないことだ

その後、2016年3月24日に、森友学園は定期借地から土地購入に切り替え、8億円を超える値引きにより1億3,400万円という破格値で売買契約を国と結んでいる。

この時期はまさに籠池氏の言う通り「神風」が吹いていたのだろう。猛烈なスピードで物事が進展し、しかも1億3,400万円の支払いは10年分割という、通常ありえない好条件だった。

内閣総理大臣夫人付、谷査恵子氏のFAX文書には「引き続き、当方としても見守ってまいりたいと思いますので、何かございましたらご教示ください」とあった。

この場合、見守る対象は何だろうか。素直に受け取れば、森友学園と国側の交渉であろう。つまり、昭恵夫人がなんらかの関与を続けるということだ。

最近、あちこちのメディアで紹介されているが、公益社団法人「日本国際民間協力会」で理事をつとめる京大名誉教授が、ケニアにエコトイレを広める事業の補助金を外務省に交渉したものの埒が明かず、思い切って昭恵夫人に会って話をしたらたちまち8,000万円の予算がついたという。

あらためて権力というものの凄さを思い知らされる。いまや、自民党内にかつてのような実力者は影をひそめ、安倍官邸に気に入られようとする輩ばかりである。

霞が関官僚もそんな状況の中では、大局的視点がますます抜け落ち、安倍首相とその周辺にばかり気を遣っているのではないだろうか。残念ながら、彼らの現実の世界で公平ということはないのである。

権力の恩恵に浴したいと欲張った籠池氏が、結局は権力に捨てられ、破滅覚悟で最後の抵抗を試みているのが今の絵柄だ。

昭恵夫人は、無自覚なうちに強大な権力の一部として動いてしまっていたのである。

 

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