日本には創業100年超えが10万社。世界がひれ伏す老舗企業の共通点

 

「お米の持つ力を近代の日本人は引き出してこなかった」

香川県の勇心酒造株式会社は、安政元(1854)年創業で、すでに160年以上の歴史を持つ。現在の当主・徳山孝氏は5代目である。

徳山氏が30歳の若さで、勇心酒造を継いだ時、清酒業界はすでに斜陽で、老舗の造り酒屋が次々と倒れていった。東大大学院で酵母を研究した徳山氏はコメと醸造・発酵技術を結びつけて付加価値の高い商品を作ろうと考えた。

お米の場合、清酒や味噌、醤油、酢、みりん、あるいは焼酎、甘酒といった非常に優れた醸造・発酵・抽出の技術があるんですけれども、明治以降、新しい用途開発がまったくと言っていいほどなされていなかった。つまり、近代に入ってから、お米の持つ力を日本人は引き出してこなかった。…

 

近代科学が行き詰まっているいまだからこそ、米作りのような農業と醸造・発酵の技術とをもう一度リンクさせ、付加価値の高いものを作ろうと、お米の研究に取りかかったのです。
(同上)

先祖伝来の土地を切り売りしながら、毎年1億円以上を研究開発に注ぎ込んだ。むかし米が湿布薬に使われていたという古文書の記述をヒントに、ようやく昭和63(1988)年にライスパワーエキス入りの入浴剤を開発して売り出したところ、たちまち年間300万本のヒット商品に成長した。

自然に「生かされている」

しかし、ある大手製薬会社が詐欺同然のやり口で徳山氏の開発した製法を知り、同様の製品を売り出したため、売上げは激減、倒産一歩手前まで行った。そこに通産省が産業基盤整備基金を通じて3億6,000万円を融資してくれ、また地元の通販社長が「おカネ、困っとるんやろ」と1億円をぽんと貸してくれた。

それを元手に徳山氏は商品開発を続け、平成14(2002)にアトピー性皮膚炎に効く「アトピスマイル」を売り出した。それまでに使われていたステロイド剤の副作用がまったくないので、アトピー性皮膚炎の子どもを持つ母親からは「救世主」並の人気を集め、口コミだけで1年で12万本売れた

さらに化粧品会社コーセーから、皮膚の水分保持能力を改善する「モイスチュア スキンリペア」を売り出すと、年間100万本を超す大ヒット商品となった。

遺伝子組み換えなどで自然界にない生物を作りだす西洋型のバイオテクノロジーに対して、日本古来の発酵技術の組み合わせによって、安全な新製品を開発するのが、日本型バイオテクノロジーだと徳山氏は言う。

西洋のヒューマニズムを「人道主義」と訳してきたのは、とんでもない誤訳やと思うんです。ある学者が言うてましたが、あれは「人間中心主義」と訳すべきなんです。つまり、何事も人間を中心に「生きていく」という発想。だから、人間と自然との乖離(かいり)がますます大きくなってきた。環境問題ひとつ解決できない。こういう人間中心主義は、もう行き詰まってきたんやないかと思うわけです。

 

一方、東洋には自然に「生かされている」という思想があります。私なんか、多くの微生物に助けてもらってきたわけで、まさに「生かされている」と思います。
(同上)

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