屈辱の容認。なぜ中国は北朝鮮をあっさり捨てたのか?

 

1つは、トランプ政権は発足前後から、台湾問題や南シナ海問題、そして貿易不均衡の問題を持ち出して中国に対する攻勢を強めていたが、中国側からすれば、台湾問題と南シナ海問題はまさに自国の核心的利益」に関わる問題で、絶対守らなければならないところである。一方の貿易問題に関しても、もしトランプ政権が高い関税などの手段で中国製品をアメリカ市場から締め出すような行動に出たら、それは輸出依存型の中国経済に深刻な打撃を与える危険性はある。

こうした中で、上述の3つの問題でトランプ政権の矛先を交わして中国の「核心的利益」と体制の土台である経済を守るために、習主席はアメリカに足を運んでトランプ大統領との会談に臨んだわけだが、まさにそのために習主席は結局、北朝鮮問題に関してトランプ政権の言い分を飲むしかなかったのではないか。つまり中国は、自国の核心的利益を米国に尊重してもらうために、その交換条件として北朝鮮を差し出して譲歩を余儀なくされたわけである。

しかしそれにしても、中国の伝統的国家戦略と国家利益を一夜にして放棄してしまう習主席の譲歩は、唐突にして拙速な感があろう。米軍による北朝鮮の軍事攻撃にあっさりと「同意」したとなれば、おそらく中国国内と政権の中から様々な反発を招くことにもなる。

こうしてみると、習主席の大いなる譲歩には、もう1つ、彼自身の政治的思惑があったのではないかと考えられる。それはすなわち、今年秋に開催予定の中国共産党党大会に向けての習主席自身の政治的スケジュールと、それに関連する彼の政権戦略である。

2012年秋に習近平政権が発足して以来、習主席は一貫して政治権力を自らの手に集中させ、彼自身を頂点とする独裁的権力構造の構築に腐心してきた。そのために彼は、「腐敗撲滅運動」の展開によって政敵を次から次へと潰して党内の幹部たちを威嚇して自身への支持を強要する一方、党と国の宣伝機関メディアを総動員して「習近平崇拝」の雰囲気を醸し出して、自らの権威樹立に躍起になっている。

その結果、今年3月の全人代で習氏は「党中央の核心」としての地位を確立することに成功して、いわば「習近平独裁」へ一歩前進となったが、それはまだ完全なものであるとは言えない。自らの権力基盤を盤石のものとするためには、習氏は今年秋に開催予定の共産党第19回党大会において党内各派閥を圧倒して人事や政策路線の面で「全党擁護」の形で「習近平独裁体制」の確立を図らなければならない。しかしそこまでたどり着くのには、依然としていくつかの不安要素がある。

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