「超時空要塞マクロス」は35年前、どんな未来を描いていたのか?

 

●コミュニケーション価値と新時代のドラマ

この「通じなかった」と「通じた」の描写は、それぞれキャラクター同士の「縁」の深さにも直結していますが、改めて観ると当時の「コミュニケーション価値」みたいなものを如実に反映しています。

1982年の作品が予測した未来世界には21世紀であるにもかかわらず、「Eメール」も「携帯電話」もありません。それどころか、「留守番電話」も「ファクシミリ」すら登場しません。『マクロス』放映時ではこれらは存在しなかったか、一般的(コンシューマ的)ではありませんでした。何せ携帯電話の代わりに、公園には自走型のロボット公衆電話機が走っているという未来予測は、さすがにハズし過ぎという感じもします。

現在のように多様な通信ツールがあれば、少なくとも第21話におけるミンメイと輝の誤解はたちまち解消されてしまいます。留守番電話であれば本人の肉声で用件は伝わりますし、ファクシミリであれば肉筆プラス場所などの情報が送れるし、まず紙として残るから、仲介したとしてもミスは皆無です。Eメールなら「了解です」と返事を送れるから読んだかどうかも瞬時で伝わります。携帯電話ならさらに不透明事項を会話による質疑でリアルタイムに確認可能です。

となると、通信ツールの種類によって、ミンメイと輝、あるいは未沙と輝の距離もまったく変わってしまうことになるわけです。これは互いに条件がそろって同じ時間が共有できないと電話で意志が通じなかった時代の、気持ちを通じさせるというありがたみ──すなわち「価値」が、今とはまったく違うということになるのではないでしょうか。

そう考えてくると、たとえ空には宇宙ステーションが存在せず、月面に基地が建設される気配もなく、道にエアカーは走っていなくとも(笑)、通信に関してはそれなりの「未来」にいるという認識がひしひしと強くなってきますね。自分自身が外出先でも携帯電話から「了解」と業務で届いたEメールに返事を出したりすると、なんとコミュニケーションは豊かになったのだ、と20年近くを通信の技術屋として過ごした身には感無量です。

思い起こせば確かに1982年当時は「コミュニケーション貧乏」だった(笑)。電話を自室に引いていない友人もいたし、実家の家計に響かせないためにわざわざ外の公衆電話から友人に長電話をしたことも数知れず。そもそも好きな話題を好きなときに語れる相手の絶対数も、今に比べると圧倒的に少なかったです。

コミュニケーションは確かに豊かになりました。この10年20年でこれだけコミュニケーション手段が変わってくると、ドラマの公式がゆらぐのも当然のことでしょう。「連絡が取れない」というディスコミュニケーションがドラマを転がすという展開は実に多いですから、数年前の作品でも今の目で見返すと「意志が通じない」状況がやけに多いことに違和感を抱くのではないでしょうか。

では現在、コミュニケーション手段が充分に発達したから、まったく軋轢やストレスが無くなり、ドラマ作家が失業してしまうほどみんなが意志をスパスパと通じさせたお花畑状況が訪れているかというと、実はまったくそんなことは無かったりします(笑)。

気軽になった──いや、なり過ぎた電子コミュニケーションは、人間の未知の暗黒面を開いて新しいドラマを現在進行形で発生させつつあると思います。これも、インターネット以前のパソコン通信NIFTY-Serveの黎明期から14年くらい、「ネットのトラブル」を当事者になったり野次馬になったりして数知れず観察して来た著者の実感です。

メールや掲示板を使うとどんなトラブルが起きてどんな葛藤が発生するのか、携帯電話を使ってどんなドラマが生み出せるか、それを自然に表現して大衆の生活感覚にマッチさせることは、アニメに限らずこれからの「21世紀のドラマ」づくりの最重要課題になるのではないでしょうか。

【2001年12月17日脱稿】初出:「月刊アニメージュ」(徳間書店)

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image by: マクロス公式HP

氷川竜介

氷川竜介

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1958年兵庫県生まれ。アニメ・特撮研究家、明治大学大学院客員教授。東京工業大学卒。文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。日本SF作家クラブ会員。海外での展示会・映画祭での講演経験多数。文化庁向けに「日本特撮に関する調査報告書」「日本アニメーションガイド ロボットアニメ編」を執筆。主な編著、参加書籍:「20年目のザンボット3」(太田出版)、「世紀末アニメ熱論」(キネマ旬報社)、「アキラ・アーカイヴ」(講談社)、『細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション』(祥伝社、2015年)、「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989」(国書刊行会)など。

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