暴走・北朝鮮に振り上げたこぶし、落とし所はどこになるのか?

 

シナリオ4=中国に後見させる

では、どんな現実策があるのかというと、それは中国に後見させるという手法です。狡猾な発想法ですが、中国が100%自由な国では「ない」ことを逆手に取って、管理的な手法で北朝鮮を一時期信託統治」させるのです。そして、トップをはじめ、核開発や拉致、テロ、麻薬密売などの犯罪を犯した人物を摘発すると共に、経済のリストラをするのです。

中国一国に責任を持たせるのは筋論として無理があるので、例えば国連が主導して、朝鮮戦争の休戦委員会の延長のような形で、米国、ロシアやEUあるいは日本も入る、但し、実際の「仕切り」は中国に任せるという体裁でしょうか。

最初は競争力は出ないでしょうが、上手く安い労働力を使いながら、中国そして韓国の製造委託先として徐々に経済を拡大し民生を向上させるのです。そして、100%の自由は適用しないながらも、一種の改革開放を進めるというわけです。ちなみに、中国はそのようなシナリオを持っていたはずで、その場合に為政者の代替として金正男という「隠し玉」を持っていたわけですが、そのことを察知した、あるいは邪推した弟に殺されてしまったわけです。

要するに北朝鮮を緩衝国家過渡的国家として中国による後見に委ねるというわけですが、勿論、幾つかの副作用があります。一番の危険は、再統一の悲願を掲げた韓国内のグループが強く反発するということでしょう。仮に北朝鮮の中に呼応するグループが登場して、それが弾圧を受けるようですと、中国と韓国の関係もギクシャクすることが考えられます。

ですが、中国と韓国が力を合わせて北を「ゆっくりと改革開放させながら安い労働力として使う」ということになると、韓国と中国には関係を改善させる要素ともなると思います。そうなれば、例えばですが、財界主導の韓国の右派は、このスキームに乗って親中、統一を悲願とする左派は反中ということで、韓国の内部対立が激化するかもしれません。ですが、自殺行為的に「なし崩しの統一」を行って「成熟社会を崩壊させるよりは韓国にとっても東アジアにとっても遥かにマシではないかと思います。

問題は核開発はともかく、拉致やテロの責任者や実行犯などについて、真相解明と責任追及が100%徹底できない危険です。ここは、何とか情報公開の透明度を高めて最終的に徹底できるようにすべきですが、何とも難しいところです。

更に懸念されるのは中国がリスクを取って、こうしたコミットをするだろうかという問題です。確かに朝鮮戦争の際には、勢い余って「北伐」にのめり込んだマッカーサーに対して、中国は北朝鮮救済の義勇軍を送った経験があります。ですが、それによって得たものはそれほど多くはないわけですし、何よりも中国4,000年の歴史を振り返れば朝鮮半島にコミットしてもロクなことにはならない」という教訓を彼らは持っています。

具体的には、隋(高句麗遠征の泥沼化)と明(秀吉に対抗した李氏朝鮮の救済作戦)の2つの大王朝が、このために滅亡しているのですから、過去の歴史に教訓を求める彼らとしてはどうしても慎重になるのではないでしょうか。

そもそも中国は政治の季節を迎えており、秋の常務委員人事が固まるまで何もできないし、そこで習近平の権力がより強固にでもならない限りこうした大きな負荷のかかる案件の処理は難しいかもしれません。

それ以前の問題として、アメリカをはじめとする西側としては、非人道的で対外的にも戦争犯罪的な性格を持つ政府に対する処断としては、やはり自由を与えて国民を開放してあげたいという強いイデオロギー的な使命感を持ってしまう部分があります。韓国の統一悲願をどう納得させるかも難しいポイントです。

また、北朝鮮のリストラを行う場合にそのコストが日本に回ってくる、少なくとも韓国に与えた借款などと同等の「戦後処理費用」が請求されたとして、それが日本で理解を得られるかという問題もあるでしょう。

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