北朝鮮危機は回避されていた。犬猿の米中が分かり合えた複雑な事情

 

経済制裁だけでは北を動かせない

第2は、中国が北朝鮮を完全にコントロールすることなど出来るはずがないということをトランプに知って貰うことである。

上述の英紙インタビューでトランプは、「中国が北朝鮮の問題で大きな影響力を持っている」のにそれを発揮せずに何もしていないと非難、それを果たさないのであれば破局が来て「誰にとっても良くないことになるだろう」と中国に迫っていた

それに対して習は恐らく、中朝関係の近親憎悪的とも言える数千年の歴史を要約的に語ったのだろう。その延長上で、今日に至ってもなお中朝関係が決して生やさしいものではなくて、中国が一声言えば北が従うというようなものではないことを説いただろう。それが「そう簡単なことではないと気づいた」というトランプ発言に繋がっていると考えられる。

これはなかなか微妙な領域で、中国はもっと厳しく経済面からの締め付けを課せばいいではないかという、トランプ的な単純思考では上手く行かなくて、例えば中国が石油供給を完全にストップすれば北の経済生活がたちまち成り立たなくなって、社会混乱、体制崩壊、大量難民発生など、それこそシリアのような破綻国家となって事態をコントロール出来なくなり、東アジアにとてつもない危機を撒き散らすことになる。

つまり、経済制裁はそれだけで最終的な効果を得ることは難しく、そこでその裏側では「宮廷クーデター」という、荒事ではあるけれども非軍事的には違いない手段が用意されなければならない。

これは前々から米中間で密かに話し合われてきたことで、例えばオバマ政権のバイデン副大統領が13年12月5日から訪中した際には、「北朝鮮のあの若者はそろそろ片付けた方がいいのではないか」と言い、習近平が「もう少し様子を見たい」と答えたという話があり、それが反習近平派の高官から北に漏れた金正恩の耳に入ったため、同月12日のNo.2の叔父=張成沢の虐殺的な処刑に繋がったとされる。張は中国指導部と親密な関係にあり、金正恩を除去して金正男をトップに据えるという宮廷クーデターのプロットを立てていた。

正男が殺された後でも、中国はこのアイデアを捨てておらず、またそのことを米国も了解し期待していると言われている。米国が中国の制裁強化への期待を語る時には、単なる経済制裁だけでなくその裏側での金正恩暗殺の執行をも含みにしていることを知っておく必要がある。

米軍によるピンポイント爆撃による爆殺や特殊部隊突入による捕獲は大戦争になる危険があるが、北の政治指導部や軍に一定のパイプを持つ中国が糸を引いた宮廷クーデターであれば大戦争にはならない

トランプ・習会談でそこまで話が出たのかどうかはもちろん分からないが、トランプが軍事攻撃優先からコロリ、「中国に任せるという態度に変わった陰には、そのような秘密のやりとりがあったのかもしれない。日本経済新聞4月16日付も「例えば、クーデターで金政権を倒す。米国にはハードルの高い金殺害も、北朝鮮軍にパイプのある中国ならば手の打ちようがあろう」と書いている。

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