【書評】なぜ日本は世界でも群を抜く「老舗企業大国」なのか?

 

そして三方良しを追求する日本的経営の淵源が日本近代資本主義の精神の教祖である江戸時代の石田梅岩の心学にある、と論じると共に石田梅岩の思想をまとめた『都鄙問答(とひもんどう)』から「心学」の考え方を紹介しています。

「商人の道を知らない者は、私欲に走って、ついには家までも滅ぼしてしまう。しかし、商人の道を知れば、私欲の心を離れ,仁の心を持ち、商人道に合った仕事をして繁盛する。それが学問の徳というものである。

 

我が身を養ってくれるお得意様を粗末にせず、真実の誠を尽くせば、十に八つは、お得意様の心にかなうものである。お得意様の心に合うように商売に打ち込み、努めれば、渡世において何の案ずることがあろうか」

 

近年の経営学では「カスタマーサティスファクション(顧客満足)」が成功への道だとしているが、それを梅岩は300年近く前に言い出したのである。

 

「私が教えるのは、まず人の道を心に自得した上で、骨身を惜しまず、勤勉に自己の仕事を実践すれば、日々に心の安心に近づく、ということです」

 

人の心は天につながっているので、私欲に駆られて人を騙したり、放蕩の限りを尽くして家業を傾けたりしたら、心の奥底の良心が疼く。「勤勉・誠実・正直」に働いていてこそ、心も安心に満たされる。同時に事業は繁栄し、周囲からも感謝される。それが輪になって広がれば、立派な社会が築ける。このように人間の心を原点として経営を考えたところから、梅岩の教えは「心学」と呼ばれた。こうした心学の広がりは、日本人の仕事観、事業観に大きな影響を与えた。現代の日本人も「石田梅岩」や「心学」は知らなくとも、ここで紹介した考え方は「常識」として受け入れることのできる人が多いだろう。これがどれほど立派なことなのかは、騙し合いが当然の中国などで仕事を経験のある人は、よくわかる。

「日本的経営」の良さと思想的淵源を論じると共に、この本は日本企業の、もう一つの特徴も描いています。それは、老舗企業の数です。

わが国は、世界で群を抜く「老舗企業大国」である。創業百年を超える老舗企業が、個人商店や小企業を含めると、十万社以上あると推定されている。

興味深いのは、百年以上の老舗企業十万社のうち、四万五千社ほどが製造業であり、その中には伝統的な工芸品分野ばかりでなく、携帯電話やコンピュータなどの情報技術分野や、バイオテクノロジーなどの先端技術分野で活躍している企業も少なくないことだ。

何故、日本は世界で群を抜く「老舗企業大国」なのか? について、著者は、この様に説明しています。

アジアの億万長者ベスト100のうち、半分強が華僑を含む中国系企業であるという。その中で100年以上続いている企業は無い。創業者一代か二代で築いた「成り上がり企業」ばかりである。これに比べると、企業規模では比較にならないほど小さいが、百年以上の老舗企業が十万社以上もあるといわれる我が国とは、実に対照的である。

 

『千年、働いてきました』の著者・野村進氏は、「商人のアジア」と「職人のアジア」という興味深い概念を提唱している。「商人」だからこそ、創業者の才覚1つで億万長者になれるような急成長ができるのだろう。しかし、そこには事業を支える独自技術がないので、創業者が代替わりしてしまえば、あっという間に没落もする。

 

それに対して、「職人」は技術を磨くのに何代もかかり、急に富豪になったりはしないが、その技術を生かせば、時代の変遷を乗り越えて、事業を営んでいけるのである。

華僑を含む中国系商人と日本の職人の対比、非常に面白い観点です。この点に関するロベルトの意見は、別エントリーでupします。

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