韓国の新大統領は本当に反日なのか。日本の外交戦略が時代遅れに

 

文大統領は「親北」なのか?

文が盧武鉉大統領の側近としてその太陽政策を推進した経歴を持つことからすれば、前大統領に比べて「親北」的であるのは間違いないけれども、これもまた、「左右のイデオロギーや特定の国に対する好き嫌いではない」(小此木)ことに留意する必要がある。

現下のこの地域の安全保障を巡る中心問題は、北朝鮮の核・ミサイル技術が急速に向上する中で、それが米本土を攻撃可能なICBM大陸間弾道ミサイルの実戦配備という重大事態に至る以前に、いかにしてストップをかけられるかにある。

それには、理屈の上では、軍事的と外交的の2つの方策しかない。軍事的とは、米軍が単独で、もしくは韓国軍との共同作戦で、さらには日本軍の集団的自衛権発動による支援も得て、先制的に北朝鮮を攻撃して壊滅させることで、それには、

  1. 米国がクリントン政権時代に構想したように北のすべての拠点700カ所を一斉爆撃して全土壊滅
  2. それは余りにも過剰なので、政治中枢・重要核施設・軍事拠点など数十カ所を爆撃
  3. 金正恩の居所を狙ってモグラ爆弾なども使ってピンポイント爆殺
  4. 米海軍特殊部隊シールズを突入させて金の首を掻く

──など、大中小いろいろな作戦があり、年々改定を重ねて来ているとされるが、いずれの場合も、北の反撃能力を100%壊滅させられる確証はあり得ないので、絶望の淵に追い詰められた北が残された核および通常爆弾のすべてを韓国および日本に向かって発射して大戦争になる。

1.の場合、94年当時の在韓米軍司令部は「最初の90日間の死傷者は米軍5.2万人韓国軍49万人民間人死者は100万人以上」という損害見積もりを提出したので、ワシントンはこのオプションを諦めた。20年後の今日では、北の反撃能力は格段に向上していて、とうていその程度の被害では済まないし、2.~4.ではなおさら報復被害は大きくなる

従って、軍事的方策で北の核を止めることは出来ず、外交的方策で平和的な対話を通じて解決せざるを得ないというのが唯一、論理的な結論となる。それをそうと認めると、「親北」とか「左派」とか「軟弱」とかとレッテルが貼られるのであるけれども、では日本と韓国の一般市民何百万人もの犠牲を出さずに実行可能な軍事的方策があるなら誰でもいいから堂々と提案して頂きたい。

そんな提案はある訳がなく、そこで次善の策としてしばしば持ち出されるのは「圧力と交渉のミックスという何の知恵もない常套的なお伽噺である。どれだけ圧力をかけると相手は怯えて膝を屈して来るのかということが計測不能であるため、牽制と抑止と威嚇と挑発の間には境目がない。こちらとしては「牽制」のつもりであったのに相手は「挑発」と受け止めて、偶発的な衝突が激発するといったことはいくらでも起こりうる。

今回、トランプ政権が空母艦隊や潜水艦や補給艦を朝鮮半島周辺に派遣し、日本がはしゃいでそれと共同訓練を実施したり、安保法制を初適用して「米艦防護」を発令したりしたのは、米日からすると牽制なのに、北から見れば挑発」と映るかもしれない。だから軍事的圧力による交渉というシナリオには何の成算もない

文が軍事的方策によらない北朝鮮問題の解決を目指したとして、それは極めて冷静な、どうしたら自国民の命を何百万も失わなくて済むかという判断によるものであって、「親北とかいう軽薄な話ではない

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