米中韓に露も加わって新しい構図が
現実にも、文大統領は「親北・反日の左派政権」のような行動はとっていない。
第1に、文は首相に知日派の李洛淵(イナクヨン)=全羅南道知事を指名した。彼は東亜日報東京特派員、議員になってからは韓日議員連盟副会長兼幹事長で日本語も堪能で、この人事そのものが強烈な日本に対するメッセージである。
第2に、文は当選後、真っ先に韓国軍の制服トップである合同参謀本部議長に電話をかけて北の動きに警戒を怠らないよう言葉をかけた。
第3に、トランプ大統領に電話をして韓米同盟の重要性を確認した。
10日の就任演説で「必要なら直ちにワシントンに飛んで行く。北京と東京にも行き、条件が整えば平壌にも行く」と述べて、全方位外交を展開するバランス感覚を披露したのだが、しかしここで、飛んで行く順番をキチンと述べていることが重要である。
いま東アジアの国際政治の主軸は、米国と中国との協調関係が織りなし始めていて、北朝鮮の核・ミサイル危機を巡っても、4月のトランプ・習近平のフロリダ会談では(同じ場所でゴルフなんぞやって喜んでいた安倍首相とは違って)かなり戦略的にシビアな話が交わされたようだ。それはつまり、
- 軍事的解決はありえないことについて習が強くクギを刺し
- ではどうするのかと問われて、石油供給の全面ストップに至る経済制裁強化
- それでダメな場合には、中国が糸を引いて北の将校を動かして「宮廷クーデター」を起こし金正恩暗殺(これも一種の準軍事的手段ではあるが、米特殊部隊突入の場合とは違って大戦争になりにくいところがミソなのだ)も実は用意している
- こんな手段はとりたくないのだと言って中国が北を説得し、米朝交渉による解決に導いていく
──といったところに、シナリオは絞り込まれてきたということだろう。こうした構想については、ロシアのプーチン大統領もすでに理解を示している。
トランプ政権の不可測性は相変わらずで、衝動的な先制軍事攻撃に打って出て何もかも滅茶苦茶にしてしまう危険はまだ残ってはいるけれども、「それだけはやってはならない」という習近平の警告を今のところトランプは受け入れて、中国主導による事態の打開に期待する姿勢を示している。
文政権は、一面でこの米中協調を歓迎しつつも、他面、韓国の頭越しに両国が朝鮮半島の運命を決めようとすることには反発するだろう。文は選挙前に米紙「ワシントン・ポスト」のインタビューに答えて、
韓国が後部座席に座らされて、米中協議や米朝交渉を見守るだけになることは望ましくない。
この問題で韓国が主導権を発揮することが、結果的に韓米同盟を強めることになると信ずる。
とはいえ、私が「主導権を発揮する」と言う場合、それは、米国との事前によく相談せずに北との交渉を一方的に始めることを意味しない。
となかなか絶妙な言い方をしている。米中に勝手に仕切られることには「民族主義」的に反発するが、かと言って米中と相談せずに北にアプローチすることはないという、正確な進路設定がなされている。
となると、米中協調を主軸にそれに韓国も同調しロシアも側面支援するという形で、北朝鮮問題の非軍事的な解決を求めていく戦略構図がすでに出来上がりつつあると見なければならない。