そこで安倍首相の居場所はどこに?
安倍政権は、残念なことに、この新しい展開に全く付いていくことが出来ないでいる。
トランプの行動は(繰り返すが)不可測的であるけれども、今のところ米国自身による軍事的圧力手段と中国経由の交渉による平和的解決手段とのミックスを採用し、その中ですでに前者を従とし後者を主とする判断に傾いていると見てよい。となると、南シナ海問題ももはや焦点ではなくなって、トランプもASEAN諸国も騒ぎ立てることを止めてしまった。
ところが安倍政権は、あくまで米国が前者を主として対処してくれることを強く期待し、米空母との共同訓練や安保法制初適用による「米艦防護」、北ミサイルに備えたミサイル防衛強化や住民避難訓練の実施、敵基地攻撃能力を持つトマホーク巡航ミサイルの配備検討、共謀罪法案の強行など、日本の「準戦時態勢」化を推進することで米国が強硬姿勢をとるよう激励しているかのようである。その背景には、米日韓軍事同盟を主軸として東南アジアや豪州、ニュージーランド、インドなども動員した軍事的・外交的な「中国包囲網」を作り上げようという冷戦型発想へのしがみつきがある。
前出の西野純也は、「韓国内には、トランプ政権が朝鮮半島の危機をあおり、日本がそれに便乗しているように見えることにも反発が強い」と指摘しているが、その通りで、それはつまり、トランプ政権の軍事的手段を放棄していないという危険な側面に安倍首相がことさらにしがみついているという歪んだ構図のことを言っている。さらに西野は、こうも言う。
日米韓はこれまで「抑止」と「防衛」で協調してきたが、韓国は北朝鮮への「関与」に力点を置くだろう。他方、北朝鮮への圧力を最大限にかけたトランプ政権が、ある段階で一転して「関与モード」に入り、日本が米韓に取り残される可能性も否定できない。
正しい分析で、しかし私は、すでにトランプ政権は関与モードを主とし軍事圧力を従とする判断に踏み切っていると見ている。安倍外交は足元に口を開けたクレバスに落ちるかもしれない。