小田急電鉄はどうやって「箱根」をドル箱観光地に変えたのか?

 

小田急の独自戦略~乗り物エンターテインメント作戦

関東の私鉄の多くはそれぞれの沿線に行楽地を抱えている。例えば京王は高尾山。西武は秩父、そして東武は日光・鬼怒川温泉。

しかし、その中でも箱根の強さは群を抜いている。実はそれを作り上げたのが小田急の独自戦略だった。それは箱根に行くだけで楽しい乗り物エンターテインメント作戦だ。

まずは新宿から箱根に向かう特急ロマンスカー。最大の売りは先頭がガラス張りの展望席。箱根への道のりは感動の連続だ。真正面に富士山、美しい沿線の桜並木……我を忘れて景色に釘付けになる。

ロマンスカーの歴史はすでに80年に及ぶ。戦前の1935年、新宿~小田原間をノンストップで結んだ週末温泉特急がそのはじまりだ。小田急は箱根への道のりを楽しんでもらうため様々な車両を開発。最近では都心の客を箱根に誘うため、地下鉄に乗り入れるロマンスカーまで登場させた。

車内で“箱根ファースト”なサービスをするのは車掌さん。例えば箱根のガイドブックを見ている客を見つけると、始まったのは箱根を楽しむアドバイス。こんなサービスのおかげで、乗っているだけで箱根への期待感が高まるのだ。

新宿から1時間半。あっという間に箱根の入り口、箱根湯本へ到着。だが一口に箱根と言っても、かなり広範囲なエリアとなる。ロマンスカーが着く湯本に、噴煙を上げる大涌谷、芦ノ湖の畔の箱根町と、観光スポットは点在している。この道のりを小田急が、レジャーに変えた。

それを楽しむために欠かせないのが、箱根の乗り物を2日間、自由に乗り降りできる4000円のフリーパスだ。

ロマンスカーの終点、箱根湯本で客を待ち構えるのは、隣のホームの赤い車両。日本一の急勾配を登る箱根登山電車だ。終点まで450mの高低差を、スイッチバック方式で、進行方向を変えながらジグザグに登って行く。窓の外は新緑の絶景。景色に目を奪われているうちに終点、強羅駅に到着する。

するとすぐに次の乗り物が待ち構えている。箱根登山ケーブルカーだ。わずか1キロの区間だが、歩くと30分かかる急勾配を快適に移動する。早雲山駅でケーブルカーを降りると、また別の乗り物が。空を走る箱根ロープウェイで、間近に迫る富士山の絶景と、大涌谷の噴煙を眼下に空中散歩。そしてその終着駅は芦ノ湖の湖畔の桃源台駅。そこには巨大な箱根海賊船が待ち構えている。気持ちのいい風を受けながら、日本屈指の絶景を堪能できる。

このいくつもの乗り物で周遊するコースこそ、小田急が作り上げた「箱根ゴールデンコース」。もちろん全ての乗り物を小田急が運行している。箱根はいわば絶景と乗り物のテーマパークなのだ。

新宿駅を起点に年間7億人の足を支える小田急は、売上げ5200億円を越える大企業。だが、その中で最も重視してきたのが、ロマンスカーで結ぶ箱根戦略だという。

小田急電鉄会長の山木利満は「創業以来、箱根急行を目指していた。それが会社が成長していく原動力になったと思います。箱根がよくなっていけば小田急もよくなっていく」と、語る。

そんな山木が自慢するのが、子供にも大人気のロマンスカーの展望席だ。小田急は少しでも客に眺望を楽しんでもらいたいと、他にない車両の開発に資金を投じてきた。

そしてその投資は箱根でも。その額、10年で実に200億円。登山鉄道に窓の大きい新型アレグラ号を導入し、ロープウェイも最新鋭のものに架け替えた。そんな魅力を磨き続けることで小田急は箱根をドル箱へと変えたのだ。

「箱根の魅力にはいろいろな要素があって、まだまだ掘り起こすことができる。それだけの潜在能力が箱根にはあると思います」(山木)

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名門宿も新たなチャレンジ~箱根の変貌力

新たな魅力で客をつかんできた箱根。それは名門、「富士屋ホテル」にもあてはまる。創業は明治11年。登録有形文化財に指定される歴史ある建物には、喜劇王チャップリン、ヘレン・ケラーなど、様々な伝説の著名人が宿泊してきた。

そんな名門の敷地内にできた、今までにない店が「富士屋ホテル ピコット」。人気を呼ぶのは、大小様々な「富士屋ホテル」自慢のパイだ。100年前のレシピから作るパイを新たな魅力にすべく始めたという。

「歴代の当主は海外のお客様を迎えるためにいろいろなことをやり続けてきた。常にやり続けているのが富士屋ホテルなんです」(同ホテルの折田道明さん)

1959年創業、開業から半世紀の「箱根ホテル小涌園」も大きなチャレンジに取り組んでいる。三井家から譲り受けた美しい庭園で親しまれてきた小涌園だが、実は来年、その営業を終了する。

その理由が隣に立つ、まるで高級マンションのように生まれ変わった新たな「箱根小涌園 天悠」だ。最大の特徴は150室全ての部屋に温泉の露天風呂が完備されていること。食事付きで1泊3万3000円~と、従来より価格もアップ。老舗旅館の大胆な挑戦がまた新たな箱根の魅力を作っていく。

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