トランプのFBI長官解任騒動は、第2のウォーターゲート事件なのか

 

反対に事件の性格ということでは、また別の議論が可能です。ウォーター・ゲート事件というのは、とにかく5人の男が民主党本部のあった「ウォーター・ゲート・ビル」に忍び込んでスパイ行為を働いた、その理由は大統領が選挙で負けることを恐れたためという、ある意味ではセコい犯罪であったわけです。

また、72年の大統領選というのは「そんなにナーバスになるような戦いではなかった」のも事実です。何しろ、ニクソンは中ソを相手に複雑な外交を成功させて、ベトナム戦争の出口を模索しており、政権としては成果を挙げていた一方で、民主党のマクガバン候補というのは「ベトナム反戦派でかなり左派の候補」だったのですから、全国的に見れば「安全な戦い」だったのです。

事実、ウォーター・ゲートの暴露が始まっていたにも関わらず、72年11月の大統領選では「マサチューセッツとワシントンD.C.」以外は全部勝っており、選挙人では520対17、得票率では60.7%対37.5%と、ニクソンは圧勝だったのです。ですから、スパイ工作などをやる必要はまったくなかったのです。一言で言えば、ニクソンの「疑心暗鬼にかられる」という性格が災いしたとしか言いようがない不思議な事件でした。

勿論、そのことと国民にウソをついたということは、極めて重大な裏切りであり犯罪だということになります。大統領としての資質についても、これでは大きなバツがついたわけで、ですからニクソンは事実上クビになったわけです。

では、今回の「ロシア疑惑」についてはどうでしょう? これは仮に言われていることが全て事実だとしたらウォーター・ゲートの比ではない大変なことになります。つまり、選挙に勝ちたい一心で「潜在的な仮想敵」である外国に「自国の政治家のスパイ」をさせていた、その結果として「神聖であるべきアメリカ合衆国の大統領選挙」が外国勢力によって歪められたということになるからです。

その上で、例えば選挙戦の頃から「中東はロシアに仕切らせる」とか「シリアはプーチンに任せる」というようなことを言い、親ロ派と思われる多くの人材を登用しているわけです。スタッフの一部には金銭の授受もあったとされています。こうなると、政権ぐるみの外敵誘致であり国家への反逆」と言われてもおかしくありません。

勿論、現時点ではそこまで深刻な「政権ぐるみの癒着」「政権ぐるみの外敵誘致、国家反逆」というところまでは行っていません。また、事件の解明がそこまで行くことは可能性としては少ないと思います。ですが、事件の性質としてウォーター・ゲートと比較すると「はるかに悪質」だということは言えます。ですから政界もメディアも大騒ぎになっているというのは、別に不自然なことではありません。

では、今後のシナリオとして考えられるのはどんなストーリーになるのでしょうか?

一つ頭に入れておかねばならないのは、2018年11月には中間選挙があるということです。仮に、問題がズルズルこのまま進行し、一方で景気が悪くなったりした場合には、トランプ不人気という中で、共和党は中間選挙で負けてしまう可能性があります。

そうなると、(可能性は実はそんなに高くないのですが)2019年の新しい議会で、大統領への弾劾が始まるということになります。その場合は、2020年の大統領選挙へ向けて、共和党は常に守勢に立たされるわけで、作戦的には非常に不利になります。

ではどうしたら良いのかというと、弾劾ではなく、「合衆国憲法修正25条4項」を使って、副大統領と過半数の閣僚が「大統領の職務遂行不能宣言」を行うという手段があります。副大統領によるクーデター条項というもので、まだ歴史上発動されたことのない条項なのですが、とにかく副大統領と閣僚の過半数が署名すれば「大統領を休職に追い込める」というものです。

その場合に、大統領サイドが「4日以内に異議」を申し立てると以降は議会の3分の2などが必要となるのですが、その場合も「共和党の副大統領による大統領の職務停止に民主党が同調する」となれば、ズバリ、今の副大統領であるマイク・ペンスは政治的な求心力を手にすることができます。

print
いま読まれてます

  • トランプのFBI長官解任騒動は、第2のウォーターゲート事件なのか
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け