しかし、高山佳奈子・京都大学大学院法学研究科教授によると、「組織的犯罪集団」「合意(計画)」「準備行為」、いずれも捜査当局による恣意的な解釈が可能だ。法案にその中身が限定されていないためである。
限定されていない以上、どのようなグループや組織でも、ある時点から「組織的犯罪集団」と認定されうる。「合意」には、SNSや目配せ、黙示、未必の故意によるものなど全て含まれる。あまりにも拡大解釈の余地がありすぎるのだ。
金田大臣が準備行為について言うように「ビールと弁当を持っていたら花見、地図と双眼鏡を持っていたら犯行現場の下見」という、いい加減な説明では話にならない。
高山教授は国会の参考人陳述でいくつもの法案の問題点をあげた。
法案には単独犯のテロ計画、単発的な集団のテロが射程に入っていない。2014年に改正されたテロ資金提供処罰法で、テロ目的による資金、土地、建物、物品、役務その他の利益の提供が処罰の対象になり、これで五輪テロ対策は事実上完了している。
東京五輪のテロ対策に共謀罪法が必要という主張に根拠がないことは明白だ。国際組織犯罪防止条約(TOC条約またはパレルモ条約)を結ぶために必要だという政府の主張についても次のように批判する。
TOC条約との関係で懸念される点がいくつかある。公権力を私物化する行為が含まれるべきだが、除外されている。経済犯罪が除かれているのも条約との関連では問題となる。
具体的には、公職選挙法、政治資金規正法、政党助成法違反、警察などによる特別公務員職権濫用罪、暴行陵虐罪などが対象外となっている。
経済犯罪では、会社法、金融商品取引法、商品先物取引法、投資信託投資法人法などの収賄罪が対象から除外され、組織犯罪とつながりやすい酒税法違反、石油税法違反も外されている。さらに相続税法違反も入っていない。
これでは権力や金持ちに都合の悪いものは除外したと受け取られても仕方がないだろう。
読売、産経など御用メディアは、「共謀罪」法案に関するごくわずかな論評のなかで、東京オリンピックのテロ対策や国際組織犯罪防止条約の締結に必要だと主張する。
共謀罪を敵視する政党やメディアは、日本が孤立を深めテロの標的となるのを座視せよ、とでもいうのか。
(産経抄1月17日)
問題なのは、野党が「監視社会化する」「一般人が捜査対象になる」などと、極論に走り、国民の不安をいたずらに煽(あお)ろうとしていることだ。
(読売社説5月10日)
自信を持ってそう言えるのなら、なぜ共謀罪法がテロ防止にそれほど重要なのか、一般市民が不当な捜査に巻き込まれない保証は何かを、明確に示してほしい。
真にこの法案が必要であれば、仔細で丁寧な説明ができるはずだが、両紙のどこを探してもそんな記事は見当たらない。官邸の宣伝文句を垂れ流しているだけである。
言論、表現、市民活動が委縮する「監視社会」にさせてはならない。国会は重大な局面を迎えている。
image by: 首相官邸