これは酷い。国語のプロが追及する、新センター試験「12の不備」

 

問4

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fukushima04

不備7)条件4が要求する「引用すべき根拠」として妥当な箇所は、採点基準に示された2箇所以外にも多々あるため、正答が誤答になるケースがいくらでも考えられる。

「ガイドラインの考え方と姉の意見が一致していると言える根拠を引用せよ」というわけだが、採点基準では、「意識の向上」または「景観を将来の世代に引き継ぐ」のいずれかを必ず入れなければならないらしい。

なぜ「必ず」と言えるのかと言えば、他の「正答の条件」では「~に触れているもの」と表現されているにもかかわらず今回はその表現がなく「引用されているもの」としか書かれていないからである。

しかし、「ガイドラインの考え方と姉の意見が一致していると言える根拠」は、言うまでもなく、これら2点以外にも多々ある。

たとえば、A「伝統的な道路遺構と街並み」も、B「街並みと自然とが呼応」も、C「歴史、文化の特質を尊重」も、D「優れた自然と景観に対して十分配慮」も、E「貴重な財産であることを深く認識」も、書き方次第でどうにでも一致点を示せる。

A・Cは時間性。B・Dは自然との関わり。Eは価値観。

たとえば姉の5つ目のセリフでは、「この街の文化や歴史の一部が途絶えてしまうよね」と言っている。これは時間性の点で一致する。

姉の6つ目のセリフでは、「自然環境も含めて、そうした住環境も大事にしないと」と言っている。これは自然との関わりの点で一致する。

そして姉の最後のセリフでは、「街がさびれていく様子を、ただ黙って見てろってこと?」と半ば怒っている。これは、価値観の点で一致する。そもそも姉は、一貫して「貴重な財産であることを深く認識」していると思われる。

そんなわけで、引用箇所はいくらでも出てくる。

それを「2つが入っていないとダメ」とは、何ごとか。

こんな初歩的で致命的なミスをするとは、採点基準作成者も、問4に来て息切れしてしまったのだろうか。ご愁傷様だ。しかし50万人の命運を握っている立場の人をなぐさめている場合でもない。

不備8)条件が多すぎて、書けるものも書けなくなってしまう。

これはもう率直な感想。受験生も多くが、戸惑ったであろう。東大の読解問題を見よ。いかにシンプルか。記述設問は本来、あのくらいすっきりと問うべきものなのである。

それでは公平性を担保できないというのなら、繰り返すが、辞めるしかない。

不備9)条件1の文に曖昧な表現がある。

「会話体にしなくてよい」とはなんぞ? 「してもよい」のか? どっちかと言えば「しないほうがよい」のか?

たしかに、「してはならない」とすれば「会話体」の厳密な定義にもとづいてチェックしなければならなくなる。だから、禁じることはできない。

だったら、せめて「会話体で書くかどうかは問わない」などという表記をすればよいものを。「しなくてよい」は、さすがに表現力が素人レベルだと言わざるをえない。

不備10)条件2の文に曖昧な表現がある(2とおりの解釈が可能な表現が2箇所ある)。

1箇所目。

【「ガイドラインの基本的な考え方」と、】の最後の「、」が曲者。これでは、

「まず、基本的な考え方を簡潔に示せ。次に、一致する点を簡潔に示せ」

という文にも読める。

2箇所目。

「(ガイドラインの考え方と)姉の意見が一致している点を簡潔に示すこと」という部分が分かりづらい。次の2とおりに読める。

「(ガイドラインの考え方と)姉の意見が一致しているという事実を簡潔に示せ」

「(ガイドラインの考え方と)姉の意見が一致している点がどのような点なのかを簡潔に示せ」

むろん、常識的に読めば後者になるはずだ。

しかし、これは「条件」である。守らなければ0点なのである。受験生の常識に期待せず、それこそ問題例2で取り上げられている契約書の文のように、厳密な表現をすべきではないのか。

常識を疑う目を持つ注意深い受験生ほど、こういうところで迷うのである。

結局、単にこう書けばよかったのだ。

「一致点を簡潔に示すこと」

なんのことはない。問3で書けているではないか。「対立点」と。

「一致点」と言えば、それは間違いなく「どのような点で一致しているのか」の内容を書くことになる。「対立点」も同じだ。

問3では書けているのに、問4では揺らいでいる。

ここでも息切れしたのか?

作問者には、もっと思考力・判断力・表現力を磨いてもらいたい。

不備11)条件4の文に曖昧な表現がある。

これは、当塾の生徒が指摘した点だ。

最後の、【なお、文中では「ガイドライン」と省略してよい】の対象が分からない、と。つまり、「何を」省略してよいのか、と。

これも、常識的に考えれば、「城見市『街並み保存地区』景観保護ガイドラインのあらまし」を省略してよいと言っているのは分かる。

しかし、その高校生生徒は、常識を疑い注意深く考えることのできる論理的思考力を持った生徒だった。

彼は迷った挙句、【引用箇所を具体的に書かずに「ガイドライン」とまとめて書いてしまってもよい】と考えたらしく、そういう答案を書いてきた。

私はそれを聞いて、「なるほどなあ」と感心した。

まあ、あまりに非常識的な考え方ではある。しかし、「え? 何を? 何を省略していいの?」と踏みとどまる姿勢は、褒め称えるに値する。少なくとも、いい加減な条件文を作った出題者よりは、注意深いと思う。

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