なぜ無名な町の名を冠した居酒屋が「ミシュラン」に載れたのか?

 

ミシュランも太鼓判~ご当地酒場の誕生秘話

合掌は1977年、福井県に生まれた。専門学校を卒業後、実家の電気工事店や地元福井の飲食店で働いた。その後上京し2005年に独立、八重洲にホルモン焼きの店をオープンした。4年で3店舗を展開するなど商売は順調だったが、店にこれといった特徴はなく、内心不満をもっていた。

ちょうどそのころ転機が訪れた。きっかけはある食材との出会い。北海道八雲町に転勤になった幼馴染があるものを合掌の元に送ってくれたのだ。その味に衝撃を受けた。

「ホタテが本当においしく衝撃でしたね、当時。築地に行けば仕入れることができるだろうと築地の店を回ったがない。ないのは残念だったが、逆にチャンスだと思った」(合掌)

八雲町の食材を使い、なおかつ無名の町をPRする店ができたら、面白いんじゃないか。合掌はすぐに役場と連絡を取った。

現地に乗り込んだ合掌。そこには役場の職員、漁業や農業の生産者など、多くの関係者が待ち構えていた。だが、「八雲町のおいしい食材を提供し、町をPRする、八雲町公認の居酒屋をやりたいんです」という合掌に、生産者からは「八雲町公認って、どういうことなんだ?」「補助金をかすめ取ろうっていうんじゃないのか?」と、懐疑の声が上がった。

その時、1人の役場の職員が立ち上がった。「確かに、合掌さんがどんな人でどんな店をやりたいのかも、わからない。だけどいまのままで、東京で八雲町が話題になることは、絶対にありません。前向きに考えましょうよ」。

合掌に助け舟を出した八雲町の荻本和男さんは、「八雲はこんなにいいものがありながら名前が知られていない。絶好の機会だと思う生産者も何人かいたんです。ぜひそこに乗って、町のブランド化が図れればいいな、という思いを持ちながら」と語る。

その後交渉を重ね、合意を得た合掌は、2009年、初のアンテナ型居酒屋「北海道八雲町」を日本橋にオープンしたのだ。

合掌が作った中には居酒屋にもかかわらず「ミシュランガイド東京に紹介される店も。ビブグルマン、5000円以下でも良質な料理を堪能できる店というカテゴリーだ。

カキ酒場北海道厚岸(あっけし)」。ミシュランが注目したのが生ガキだ。水温の低い厚岸は、日本で唯一、1年中カキが出荷できる。季節を問わずに生で楽しめるのだ。

美味しいカキが獲れる厚岸町は、北海道の東部にある太平洋に面した人口1万人ほどの町だ。3月、東京の店のスタッフが厚岸にやってきた。

ファンファンクションでは、食材の知識を身につけさせるため、店舗スタッフに必ず現地で研修を受けさせている。さっそく船で海へ。スタッフが待ち構えていると長いカゴが現れた。このカゴの中で養殖されていたのは、厚岸特産のブランドガキ「マルえもん」。東京にいるだけではわからない生産現場に、みな興味津々。生産者の苦労を知り、美味しさを知る。こうして町の宣伝マンが少しずつ増えていく

print
いま読まれてます

  • なぜ無名な町の名を冠した居酒屋が「ミシュラン」に載れたのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け