死亡例もあるヒアリ、日本上陸。専門書で知る刺された時の対処法

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ヒアリが日本に上陸したことがわかり、多くのメディアでは「殺人アリ」などと大々的に報じています。今回のメルマガ『クマムシ博士のむしマガ』では著者のクマムシ博士こと堀川大樹さんが、生物研究者の目線で、ヒアリの生態や対策、さらには刺された場合の死亡率まで、わかりやすく解説しています。

『ヒアリの生物学』でヒアリの生態を知る

2017年5月、神戸港で国内では初となるヒアリが発見された。さらに同年6月には名古屋港と大阪港でもヒアリが確認された。ヒアリは原産地の南米からアメリカ、オーストラリア、そしてアジア諸国へと侵入、定着しており、その分布域を拡大している。

ヒアリは針をもち毒を打ち込んで攻撃し、場合によっては人間を死に至らしめるともある。このことから、国内のメディアでも「殺人アリ」ヒアリについて大きく取り上げるようになってきたが、この侵略的外来種が実際にどの程度脅威となりうるのかについて、正確かつ詳細な情報源が限られているのが現状だ。

この生物について国内で入手できる情報源のうち、もっとも豊富な情報を提供してくれるのが書籍『ヒアリの生物学』だろう。

2008年に出版された本書には、次のような一節がある。

ヒアリは将来日本を侵略するだろうか?答えは「イエス」である。問題は、いつ、どこに侵入するかということだ。

9年前に出版された本書は、まさに今の日本の状況を言い当てていた。今回は、本書からの情報を中心に、この生物の生態、侵略の経過、そして対策などを見ていきたい。

ヒアリとは

ヒアリは広義には「刺されると火傷のような痛みを起こすアリの総称」だが、狭義には南米原産のSolenopsis invictaのことをいう。ここでも、このS. invictaをヒアリとよぶことにする。ちなみにinvictaとは「強い、やっつけられない」という意味。まさしく、このアリの絶望的なまでのタフさを言い表している。

触角の先に2節からなるふくらみがあることと、お腹の近くの腹柄に2つのこぶがあることが、ヒアリの形態の特徴。

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Image: ヒアリのワーカー. 『ヒアリの生物学』より著者の許可を得て掲載

ヒアリは日当たりの良い場所に巣を作る。原産地の南米よりも侵入先のアメリカなどの方でヒアリが繁栄しているが、これは宅地公園などの都市環境がヒアリにとって好都合なこともあるようだ。人間がせっせとヒアリのための環境を整えている事実は、なんとも皮肉である。

ヒアリの巣はマウンド状のアリ塚を形成する。

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Image: ヒアリのアリ塚. 『ヒアリの生物学』より著者の許可を得て掲載

日本ではこのようなアリ塚を作るアリはほとんどいないため、もしヒアリがそれなりの規模の巣を作っていれば、これが目印になる。コロニー内のアリの数は数万〜数十万にもなる。つまり、大きなコロニーには、鳥取県の全人口と変わらない数のアリが暮らしているわけだ。

突然の雨に見舞われても、ヒアリは怖気づかない。ヒアリたちは互いに組み合ってイカダをつくり、水たまりに浮いて避難する。恐るべき生存能力。

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Image: TheCoz (Creative Commons Attribution-Share Alike 4.0 International)

他のアリと同様に、ヒアリは巣内に女王アリとワーカーがいる(真社会性)。女王アリは1時間に80個のペースで卵を産み、一生の間に200〜300万個の卵を生産する。ワーカーはすべてメスだが生殖能力はない。ワーカーの大きさは2.5〜6ミリメートルとばらつきがあり、小型ワーカーは主に巣内の仲間の世話や採餌を、大型ワーカーは主に餌となる種子を砕いたり巣を掘ったりする。

ワーカーには、女王アリや仲間の防衛という重要な任務がある。平均して、小型ワーカーは1回の攻撃で7刺し大型ワーカーは4刺しする。攻撃力は小型ワーカーの方が高い

女王アリが生殖力をもつ新女王とオス(有翅虫)を産む時期はワーカーが1刺しあたりに注入する毒の量は1.5倍となり、攻撃力が増す。この攻撃力増大は、自分たちの血縁者を守る適応的行動だと考えられる。この攻撃力の変化が女王アリからのシグナルにより引き起こされるのか、興味深いところだが、よくわかっていないようだ。

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