もしも東京で大水害が起きたら…地下鉄から始まる「水没」の恐怖

 

低地に住宅が密集し、地下に地下鉄、共同溝等が網のように張り巡らされている東京が洪水に見舞われたらどんな被害が発生するか…。

地域マネジメント学会のシンポジウムでは、著書『首都水没(文春新書)』で知られ、東京の水害対策の第一人者である元都庁職員で工学博士の土屋信行氏の講演が続きました。


中央防災会議のシミュレーションでは、荒川放水路の右岸で堤防が決壊した場合、11分後には、水は700m離れた南北線の赤羽岩淵駅に到達。駅入り口の1mの止水板を軽々乗り越え、水は地下鉄に駅に流れ込む。水は地下鉄トンネルを通って、次々に次の駅に流れ込む

大江戸線は、すべての地下鉄とつながっているので、堤防決壊6時間後には、西日暮里等6駅、9時間後には、上野駅等23駅、12時間後には、東京、大手町等66駅が水没

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動画「荒川氾濫」より、銀座水没のイメージ(国交省荒川下流河川事務所YouTubeチャンネル)

2001年に台湾を襲った台風で、台北市の地下鉄が水没したときには、軍隊の応援も入り国家が総力を挙げても復旧までに3か月かかっている。もし、東京の地下鉄がほぼすべて水没したら、復旧にどれだけかかるか想像もつかない。

地下鉄トンネルには水を止めるためのゲートをつくっているが、電気も途絶えた真っ暗な地下でいったい誰が閉めるのか? もし、中に人が残っている可能性があっても閉めることができるのか。

水害は地震と違って前もって準備できる。自治体に任せるのではなく、国が避難命令を出すべき。専門性がない指揮官の意思決定に任せていては多くの人の命を守れない。先日の米国イージス艦の衝突事故では、船長は中に残っている7人を犠牲にしてもゲートを閉めて船と情報を守った。日本の誰にその判断ができるか。

水害対策は本当に遅れている。地下鉄入り口の止水設計は穴だらけで、地下鉄の排気口からも水は侵入するが対策はないに等しい

そして、地下にあるのは地下鉄だけじゃない。東京の地下に張り巡らされている共同溝や電気設備のための地下トンネルもすべてが繋がっていて、洪水を拡大する。さらに、地上の植え込み等にある変電トランスが水につかることで漏電の可能性があり、電気をすべて止めざるを得ない

高潮も心配だ。細い河川を高潮が上ると狭窄によるせり上がりでものすごい勢いと高さになる。東京湾にはその危険がある水路が多数存在し、行き止まりにある水門ではとても防げない。

カスリーン台風のとき、1万4,000人が濁流の上の鉄橋を歩いて江戸川区から市川へ渡った。その後整備されてきたス―パー堤防は、例え一部が決壊したとしても残った部分に、避難の高台としての機能が残る、不可欠なものだ。


首都圏の河川の多くは、天井川周囲の地盤より川底が高い)です。周辺の地盤はどんどん沈下し、人工的な堤防で河川を固定していますが、放っておくと堆積物で川の水位はどんどん上がってしまいます

定期的に川底をさらって川の水位の上昇を防がなければなりませんが、もし、日本の経済力がこれだけの土木事業を維持できなくなったら、ものすごく危険な状態になってしまいます。今後の気象変動による被害想定の大幅アップと、それに対応する土木事業が経済的に可能かと言う厳しい追いかけっこの状況にあることは間違いないように思います。

首都水没の想定は、直下地震の想定よりさらに困難を伴います。あまりに困難なので、多くの人が思考停止しているような気がします。

ただ、唯一の救いは、水害はある程度予測ができることです。洪水や高潮の危険があるときは、命を守るために、いち早く地下から地上に出る。水没が想定される地域では、高いところに避難することを常に意識した方がいいでしょう。

水は怖いです。簡単に人の命を奪います。私の一番古い記憶である伊勢湾台風翌日の見渡す限り市街地が水没している映像がよみがえります。

image by: 国交省荒川下流河川事務所YouTube『荒川氾濫』

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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