タカタは悪事を働いたのか? 自動車評論家が振り返る日本クルマ史

 

タカタは悪事を働いたのだろうか? 安全を商売にするメーカーだぜ

ホンダは、クリエーティブムーバー以降メガトレンドといえる宝の山を掘り当ててはいない。日本市場でのシェアは軽自動車を入れて50数万台。トヨタの3分の1ほどの勢力でしかない。グローバルシェアにしても、トヨタとは1対2の関係。ホンダは2輪のジャイアントであり、トヨタの心境は理解するメーカー。北米では日本の約3倍、中国でも約2倍の100万台超を作って売っている。日本国内に薄く海外に厚い。

需要のあるところで生産をするホンダが社是にも謳う基本姿勢。それが故に、日本の国内市場向けプロダクトが軽自動車とコンパクトカー/ミニバンというダイナミズムを欠く量販メーカーとの印象を強くする。日本で見るのと外国で見るのとでは別のブランドという感じがする。これはホンダに限らず日本メーカーに共通する感覚だが、ここは注意が必要だ。

少し前にエアバッグメーカーの大手タカタが経営破綻したというニュースに沸いた。

もともとはホンダが1980年代中頃にタカタと共に開発を進めてきた技術の結晶であり、その品質の高さ技術的な挑戦に対する姿勢は優良企業との評価が下される誇らしいものだったはずである。

すでに1億個とも言われる生産販売実績があり、救った命も少なくない。これまでに分かっている17人という死者数は比率で言えば0.1%以下という小さい数字に収まる。巷間暴発による死傷者が出ているとある記事は、あたかも何もせずに破裂してその際に破片が飛び散って負傷、最悪死亡に至るという印象を与えるが、いずれも衝突事故を興した際に展開した時のもの。

SRSエアバッグは衝突時のコンマ数秒余りという短時間に確実に展開して、シートベルトによる捕捉力を高める仕組み。インフレーターに用いられる相安定化硝酸アンモニウムは高温多湿に異常膨張することが指摘されている通常の硝酸アンモニウムとは別物であるという。

これまでの死亡事故例はいずれも高温多湿地域でも事例だが、再現性の確認は取れていないという。マレーシアの1例を除けば、フロリダを始めとする米国南部でのもの。17人という死亡者数は過小評価すべきものではないが、かつてのトヨタの異常暴走事故やプリウスの濡れ衣事例にもあるように、米国市場特有のリスクマネージメントが今回の評価を分けたと思う。

私にはタカタのエンジニアや経営陣が悪事を働いたとは到底思えない。経営は結果責任なので甘んじて受ける必要があるが、寄ってたかって部品メーカーを指弾する状況は余りにも不健全。当初手に手を取って安全性追求のために力を合わせたOEMとサプライヤーが力関係によって切り捨てられる。

すでに米国で150万台のクルマを売り上げるホンダにとって、リスクを負うことなく当局からの指摘を早々に受け入れた経営判断は、チャプター11(米連邦破産法第11条)で倒産という憂き目を見たタカタの現実を目の当たりにすると次善の策だったに違いない。

救った命の多さとは比較にならない少人数の死が経営破綻という最悪の結果をもたらした。安全は何物にも優先されるべきものだが、技術で社会に貢献しようとする善意の者が問答無用で退場を命じられる。リスクを負ってより良い安全技術を手掛けようとする善良なエンジニアが立ち竦(すく)むことを憂える。

(メルマガ「伏木悦郎のメルマガ『クルマの心』」より一部抜粋。続きはご登録の上、お楽しみください。初月無料です)

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