安倍総理、「保守」を喜ばせる
談話の中に、保守が喜びそうな部分がいくつかありました。
日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました。
事変、侵略、戦争。
いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。
植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない。
ここに「侵略」という言葉が出てきます。しかし、「日本が侵略した」とはいってません。
我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。
「お詫びの気持ちを表明してきました」と事実を述べています。
しかし、「安倍談話」の中に、直接的お詫びの言葉はありません。
日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。
あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。
戦後生まれた人たちに「謝罪しつづける宿命を背負わせない」そうです。
これだけいえば、安倍総理の支持基盤である「保守」の皆さんも満足したのではないでしょうか?
安倍総理、アメリカを喜ばせる
次に、保守とは正反対の歴史観をもつアメリカです。
談話の中には、アメリカを喜ばし、なおかつ中国を暗にけん制する部分がありました。
私たちは、自らの行き詰まりを力によって打開しようとした過去を、この胸に刻み続けます。
だからこそ、我が国は、いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである。
この原則を、これからも堅く守り、世界の国々にも働きかけてまいります。
私たちは、国際秩序への挑戦者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます。
だからこそ、我が国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。
これは、もっとも印象に残る「最後の部分」です。現実はどうであれ、自由、民主主義、人権など声高に主張しているのは、どの国でしょう?
そう、アメリカです。
一方、「自由がない」「民主主義ではない共産党の一党独裁」「人権が全然ない」のは、どの国でしょう?
そう、中国です。
その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。
「価値を共有する国々」とは、アメリカ、欧州、オーストラリアなどのことでしょう。
「積極的平和主義」とは、自国のみならず、世界の平和と安全に貢献していくということです。つまり、ここで安倍総理は、「アメリカ側につきますよ。中国とは違いますよ」といってるわけです。
安倍談話について、アメリカのメディアでも、いろいろ批判があるそうです。
理由は、「謝罪がない」「侵略したことをはっきり認めてない」と。
しかし、アメリカ政府の反応は、こうです。
「日本はすべての国の模範」、米が戦後70年談話歓迎 ロイター 8月15日(土)2時34分配信
[ワシントン 14日 ロイター]安倍晋三首相が発表した戦後70年談話について、米国家安全保障会議(NSC)は14日、歓迎する意向を表明した。
ネッド・プライス報道官は「戦後70年間、日本は平和や民主主義、法の支配に対する揺るぎない献身を行動で示しており、すべての国の模範だ」とした上で、世界の平和と繁栄への貢献を首相が約束したことを評価。
「安倍首相が、大戦中に日本が引き起こした苦しみに対して痛惜の念を示したことや、歴代内閣の立場を踏襲したことを歓迎する」と述べた。
「すべての国の規範」だそうです。
というわけで、「安倍談話」は、「日本の保守」と「アメリカ」、正反対の歴史観をもつ2つの勢力を「両方満足」させることに成功したのです。
「安倍談話の結果」は何でしょうか?
- 安倍総理の支持基盤である「保守」は満足した。
- 日本の軍事同盟国であるアメリカは満足し、中国の戦略は挫折した。
というわけで、「成功」といってよいようです。
だからといって、日本は一刻も油断できません。安倍総理は、「話し上手だが、行動が信用できない」と思われているからです。