日本の親が気づけない「子供をバイリンガルに育てたい」の危険性

 

バイリンガルとはなんなのか

ネットを見ていると、「子どもをバイリンガルに育てたいと希望している人が多いことに驚く。

海外で苦労しながらバイリンガル環境で子育てをしている人から、日本にいながらにして子どもに英語を身につけてもらいたいと熱望して、英会話スクールやインターに通わせている人まで、本当にたくさんいるらしい。

でも、彼らが子どもたちに望んでいるバイリンガル」像ってなんだろう? というのが、よくわからない。

「バイリンガル」といっても、ものすごーく色々である。

私はハワイでもシアトルでも、じつにありとあらゆるバイリンガルの人に出会った。

2か国語で会議ができる人、読み書きはどちらか一方でしかできない人、聞くだけならわかる人、長年ハワイにいすぎて母語の日本語の方が怪しくなってきている人。

ハワイは特に観光業が主要産業で、日英両方が流暢に喋れる人はホテルのフロントからツアードライバーまで、もう本当にたくさんいた。

有象無象のバイリンガルの中で最高峰の言語能力を持つのは通訳者の皆さんであるのは異論がないと思う。私は同時通訳ができるレベルでは全然ないが、通訳の勉強も少しだけしたことがあり、同時・逐次通訳者さんたちの超人的な技能を間近で何度も拝見した。

会議通訳の業界では、通訳者が仕事で使える言語(working language)をA言語B言語C言語と分けている

Working languages

A言語は「母語」。生まれ育った国(または地域、民族)の言語。

B言語は「完全に流暢に喋れる母語ではない言語。通訳者はこの言語への通訳もするが、多くの場合は逐次通訳のみ、同時通訳のみなど形式を絞ることが多い。

C言語は、聞けば完璧にわかるが流暢には話せない言語。通訳者は自分のC言語からB言語やA言語への通訳はするが、C言語への通訳はしない。

A、B、C言語を持つ通訳者はどの組み合わせでもレベルの高い「バイリンガル」だが、通訳者の間でもA言語、つまり母語をふたつ持つバイリンガルというのは非常にまれだという。

なかにはA言語を持たず、B言語のみふたつ持つという人もいると聞く。

たとえば、両親の仕事の都合などで、外国を転々として育った人の場合など、完璧な読み書きや会話の能力をふたつ以上の言語で持っていても、そのどちらにも母語といえる背景を持たないこともあるとか。

では、A言語とB言語の決定的な違いはなにか、というと、私が通訳の授業を受けたハワイ大学のスー先生は「子ども時代の歌や童話などに通じているかどうか」「ジョークがわかるかどうか」を例として挙げていた。

つまり、言語の背景にある文化の厚みが身についているかどうか、ということ。

文化はとてつもなく入り組んだ、とてつもなく膨大な情報だ。言語の機微はその文化の一部。

ある文化の中に生きる人が共有する価値観、なにがタブーなのか、なにがイケてるのか、といった皮膚感覚のような非言語情報まで把握していないと、冗談はわからないことが多い。

バイリンガル環境で子どもにふたつの言語を完全に習得させようとするのはふたつの文化をまるごと理解させようとすることだ。

それがどれほど莫大な情報量なのかがあまりわかっていない親御さんも、特に日本でバイリンガル子育てをしようと試みている方の中には、もしかしたらけっこういるのではないかと思う。

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