トランプは正気を保てるか? 北朝鮮が目論む「平和協定」の駆け引き

 

トランプは正気を保てるか?

次に心配なのは、軍事にも外交にも疎いトランプ米大統領が、感情にまかせて北への軍事攻撃を命令してしまうことである。周知のようにトランプは、「世界が見たこともないような炎と怒りに見舞われる」と、金親子お得意の「火の海にしてやる」とほとんど同じ下劣な口調の言葉を8日に吐き──しかしこれはどういう英語なのだろう、「怒りの炎」ならまだ分かるが、fire and fury て、何かそういう慣用句でもあるのだろうか──それが騒ぎを呼ぶと、10日には「厳しさが足りなかったかもしれない」と言葉を重ねた。

さらに11日には「(北の核問題に対する)軍事的解決の準備はすでに整っている」とツイッターで宣言して見せた。トランプは、今どこぞのゴルフ・リゾートで長期休暇中で、プールサイドのデッキチェアかバーのカウンターに座って親指でこんな言葉を吐き散らしているのだろう。

これに対して、ワシントン内外から一斉に牽制や警告が発せられているのは当然である。

政権内では、ティラーソン国務長官が、米政府はあくまで外交的な努力を通じて北の核・ミサイル開発問題を解決することを目指していることを繰り返し表明し、「米国は北の体制転覆を目指さず、政権崩壊も求めない。朝鮮半島再統一の加速は求めず、北緯38度線の北に米軍を派遣する口実も求めていない」とまで具体的に述べている。マティス国防長官も同じ立場で、10日の会見で「北問題はティラーソン国務長官やヘイリー国連大使が外交努力を続けている現時点ではその成果が出つつある」と、ティラーソン共々、トランプの暴発を抑えていくつもりであることを明言している。

議会では、下院の野党=民主党の多数議員が、トランプに対北の挑発的言動を自制するよう求める書簡をホワイトハウスに送りつけた。議会が心配するのも当然で、トランプは就任から半年を過ぎた今も、外交の実務を担う国務省の中心ポストを空白にしたままである。安全保障担当次官、東アジア・太平洋担当次官補、駐韓大使、対北人権問題担当特使などで、対アジア・対朝鮮半島に関して責任を持って実務を扱う者は誰一人いないという異常事態である。この状況ではティラーソンとマティスの両長官が大統領の正気を保つことに責任を負うしか破滅を避ける方法はない

また中国とロシアはそれぞれに、金正恩に対して挑発行動を止めるよう圧力をかけると共に、トランプに対しても自制を求め、ドイツはじめ欧州もそのような中露の努力を支持している。

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