「軍事的解決」など存在しない
本誌が何度も解析してきたように(注)、この問題に「軍事的解決」は存在しない。トランプが本当に軍事力を行使してこれを解決することができると思っているのであれば、それは無知のなせる業であり、思っていないのに言っているのであれば、単なる言葉の上での脅迫にすぎない。
注:今年に入ってからのこの問題についての本誌の論考
- No.882 トランプ政権が金正恩「斬首作戦」に踏み切るとは本当か?
- No.887 米中協調で進む北朝鮮危機の外交的・平和的解決の模索
- No.892 米朝双方が“先制攻撃“をしなければ戦争は起きない
- No.897 米国は対北朝鮮の軍事攻撃オプションを選択しない
米国が採りうる軍事行動には大中小があって、大は93年にクリントン政権が立案して思い留まった「北の全土700カ所を一斉攻撃する」という作戦、中は核・軍事施設だけに絞ってピンポイント爆撃、小は金正恩の爆殺ないし特殊部隊突入による「斬首」作戦などだが、いずれも北の核および通常兵器による報復攻撃を100%封じることが不可能であるため、必ず何カ月も続く大戦争になって、北はもちろん韓国、日本、そして(北のICBM完成後であれば)米国で合わせて数百万人の死者が出ることが避けられない。
他方、北の核開発の目的は、米国との核抑止関係を成立させることを通じて38度線の休戦協定を64年ぶりに平和協定に置き換える交渉を開始し、並行して米朝国交樹立のための交渉を始めることであるから、北の方から先制的な攻撃を仕掛けることはない。
従って、今の局面で肝心なことは、金正恩にこれ以上の際どい挑発行為に出るのはトランプが相手では危険であることを理解させ抑えつける一方で、トランプに対しては「軍事的解決」はあり得ないことを理解させて直ちに交渉による解決に踏み切るよう促すことである。
この簡単なことが今まで実現しなかった最大の要因は、米国がクリントン以来、「北が核開発を放棄すれば交渉に応じる」という姿勢をとってきたことにあるので、この際それは止めにして、核開発を「凍結」すればそれで交渉開始は可能という姿勢に転じればいいのである。
そんな妥協をすることはとんでもないと叫び出す人がいるかもしれないが、米国は旧ソ連はじめ中国、イスラエル、インド、パキスタンなどが核保有を実現した時には、いずれも既成事実として受け入れてきたので、今回そうすることに特に何の不都合もないはずである。