トランプは正気を保てるか? 北朝鮮が目論む「平和協定」の駆け引き

 

米外交・軍事政策マフィアが動く

実はすでに米国の外交・軍事政策のプロフェッショナルたちは、その方向で解決を図るべく動き出している。影響力ある外交専門誌『フォリン・ポリシー』はとっくにその論調に踏み切っていて、最近の例を挙げれば、8月7日の電子版で、米陸軍大学付属戦略研究所のアジア安保政策専門家2人による「核保有の北朝鮮と共存していくことをいかにして学ぶか」という論文を載せ、さらに8月9日にはミドルベリー国際問題研究所の東アジア核不拡散計画の代表理事による「ゲームは終わり北朝鮮は勝った」という、いささかムッとするようなタイトル論評を掲げた。

前者の著者はデイビッド・ライ教授と調査アシスタントのアリッサ・ブレアで、「公式の政策や米陸軍の立場を必ずしも反映していない」と断りながら、要するに「ピョンヤンに核兵器を諦めさせる最善の方法はそれを彼らに持たせてしまうことである」(同論文の副題)と主張している。

北の核を直接に軍事力を行使して除去するのは危険で悲惨な仕事になる。しかし米国には間接的に北朝鮮の挑発に対処する方法が残されている。両国の関係を正常化しお互いの敵意を除去しようという北朝鮮の呼びかけに応じることである。

このシナリオでは、トランプ政権は北に対して2つのことを明確にしなければならない。第1に、彼らの挑発は自殺的であって、もし米国やその同盟国である韓国・日本にミサイル攻撃をしかけるようなことがあれば、北は全滅することになるということ。第2に、彼らが挑発を止めるなら、ワシントンは平和条約を結んで朝鮮戦争を正式に終わらせ、関係を正常化するだろう──仮に北が核保有国のままであったとしても、である。

核保有国=北朝鮮と共存することは、北に対して核を諦めるよう説得することを止めることを意味しない。しかし米国はもはや北の「大敵」ではなくなるので、北の核問題の矢面に立つ必要がなくなる。そうすると、北の核はまずもって中国にとっての問題となり、中国が朝鮮半島の非核化に積極的に取り組まざるを得なくなるだろう……。

後者の著者はジェフリー・ルイスという不拡散問題の専門家で、こう述べる。

米政府の情報コミュニティが、北朝鮮は実戦に足る60発もの小型化された核弾頭を保有し、米本土に到達するICBMも製造していることを認めた。これは大ニュースで、これによって、北を非核化させるために外交でやるべきなのか軍事力でやるべきなのかというこれまでの議論は、終わった。

この先どうするのか。引き続き核とミサイルとを放棄するか、少なくとも凍結するよう、北を説得すべきだという人もいるが、私はそれはそう簡単ではなく、まず時間をかけて緊張を低減させていくことが必要だと思う。しかしいずれにせよ方法はただ1つ、北朝鮮と交渉する事である。

もう1つの選択肢は最悪である。信頼に足る軍事的選択肢などあり得ない。何基あるか分からないミサイルとたぶん60発はあるという核弾頭をすべて破壊することなどできると思うか。1発でも生き残ればそれがソウルか東京かニューヨークに降る。あるいは、米国のミサイル防衛が設計仕様より巧く働いて、米国に向かってくるミサイルのほとんどというのではなく最後の1発まで取りこぼしなく撃ち落とすことができると思うか。その可能性にあなたは自分の命を委ねるか?

運がよければ、ほとんどのミサイルを落とせるだろう。ソウルとニューヨークは何とか助かったが、東京は壊滅した。3つに2つが生き残ったのなら悪くなかったよね? ──ふざけて言っているのだが、これが今始まった新しい世界の現実である……。

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