避けられない国家ライフサイクル
習近平がいくら狡猾でうまく立ち回っていても、決して避けることのできない問題があります。なんでしょうか? 「国家ライフサイクルで、中国は成熟期に向かっている」という問題。
復習しましょう。ある国は、混乱期・移行期にある。二つの条件が整うと、成長期に入ります。
- 政治が安定する
- 指導者が正しい経済政策を行う
この国は、「安い労働力」を武器に、「安い製品」をつくることで、急成長していく(成長期前期)。しかし、経済が成長すると、必然的に人件費が上がっていきます。そして、成長期の後期に入ると、この国で生産するメリットが徐々に薄れ、企業が外国に出ていってしまう。それで、成長は、必然的に鈍化していきます。
中国は、ざっくり1980年から成長期に入りました。1990年代、「安かろう悪かろう」で急成長した。2000年代、「世界の工場」になった。2010年代、「中国は世界一になる」といわれている。この国は、すでに成長期後期の終わりに近づいている。2020年代は、日本の1990年代に匹敵する。つまり、これから中国を待ち受けているのは、「暗黒の10年、20年」ということになる。
私がこの話をしたのは、2005年発売の『ボロボロになった覇権国家』の中でした。以後、12年間同じことを書き続けてきましたが、予測を変える必要は感じません。まさにそのごとく動いています。
揺らぐ「正統性」
日本では、いま「自民党」が政権にあります。しかし、その前は、民主党政権でした。その前を見ると、たとえば日本新党の細川さん、新生党の羽田さん、社会党の村山さんなどが総理だったこともある。そう、日本では、時々政権がかわります。
しかし、中国は、オフィシャルに「共産党の一党独裁国家」である。だから政権はかわりません。ただ、共産党のトップがかわるだけです。世界的には「異常」な体制ですが、それでもこれまであまり問題はなかった。
まず第1に、共産党の毛沢東が「中華人民共和国を創った」という正統性があった。トウ小平の時代からは、「共産党のおかげで、中国経済は世界一急成長している」という正統性ができた。しかし、中国経済は、「国家ライフサイクル」に従って成長が鈍化しています。そして、これからますます成長が難しくなっていくのは確実。
つまり、「共産党のおかげで経済成長神話」が崩壊していく。「正統性」が揺らいでいく。こんな流れの中、習近平は、どうやって「正統性」を確保するのでしょうか?