日本の底力を世界に見せつけた零細企業「由紀精密」の挑戦

 

中小企業に起業家精神が

しかし、そんな日本にも最近戦後の第二創業時代がやってきている。それは活力を失った大企業ではなく、日本の企業の99%を占める中小・零細企業の中から、明治維新期や敗戦後の日本を元気づけたような企業が次々と生まれてきている。今回はそんな第二創業時代を思わせる典型的な企業を紹介したい。

その企業は、私が毎週日曜21時半からTBSラジオで放送している「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」に出演頂いた(今後放送予定)、神奈川県茅ヶ崎市の由紀精密(大坪正人社長)という零細企業である。社員20人余とパートタイマーを入れて30人ほどの小企業だが、航空医療機器などの部品加工を行なっている。営業社員がいない経営スタイルを貫き、大学や大学院出身の若手が油まみれで働いている普通の町工場のような会社だ。

中小企業でありながら祖父が創業し、父親が継承していた螺子(ネジ)の会社を僅か3~4年で、何と航空産業、医療機器の会社へと変身させ、この5年間で取引先を3倍に増やし、売上高も大幅に伸ばしているのだ。欧州にも拠点を置き、高付加価値製品をアジアよりも欧米、特に航空機の最先端技術開発国であるフランスにターゲットを絞って戦略を立ててきた。

航空産業に挑む由紀精密

祖父が設立したネジの会社を航空機産業関連の企業へと変えたのは、3代目の正人氏(42)だ。小さい頃は家業を意識することなく、むしろ祖母には町工場を継ぐことを反対され、大企業への就職を勧められたという。実際、正人氏は東大大学院の工学系研究科を卒業した後、金型製作ベンチャーのインクス社に入社。携帯電話試作金型で世界最高速の金型工場を自ら立ち上げるなどして一躍有名になった。2005年には第1回日本ものづくり大賞、経済産業大臣賞受賞などを受賞、2017年には皇太子殿下(※)が視察している。

2006年、実家の経営がはかばかしくないことを知り、「いずれ家業を継ぐつもりがあるなら早い方がよい」と転職した。家業を継いでみて日本の町工場の力量に驚いた。経営戦略は無くただ納期に合わせて現場で働いているだけと考えていた実家の仕事は、複合加工部品を一万個も納めてクレーム一つない。その仕事ぶりに驚き、日本のものづくりを支えているのが町工場なのだと実感する。

以来、中高年者が油まみれでものを作る古いイメージを変えたいと社名ロゴを変え若手を採用し、先端機械も次々と導入する先行投資を行なった。短納期と高品質不良品ゼロを達成し、1万点を超える複合切削加工を手掛けてきた。0.2マイクログラム(マイクロは100万分の1)で500円の超精密コネクターの加工に成功し、航空機、レーシングバイク用部品などの高付加価値部品を次々と受注するようになった。

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