日本の底力を世界に見せつけた零細企業「由紀精密」の挑戦

 

品質と信頼を武器に異業種に参入

3代目の正人社長は、祖父の会社から引き継いできた中心事業の公衆電話は需要減少で売上が激減してきたため、会社を根本から立て直そうと企業改革に踏み切る。顧客や従業員、他社などから意見を聞き「自社の強みは何か」を徹底的に洗い出す。その結果、継承してきた技術を公衆電話を作る大量生産型のビジネスから大量生産型でなくともよいから高品質のものづくりの企業に変えたいと考え、自分たちの技術が参入できて将来性のある産業を考えぬいた。こうして結論に至ったのが航空機宇宙産業と医療関連だった。

中小・零細企業が全く知らない宇宙、航空関連や医療産業に挑戦するのは無謀のように見えた。しかし単なる部品の受注だけでなく、設計から製造まで一貫して行なえる開発体制を整え、積極的に航空宇宙関連の展示会に出展。情報開発にも力を入れてこの分野の品質マネジメント規格「JISQ9100」も取得した。2013年には超小型人工衛星向け部品を供給したり、内視鏡や医療機器関連分野にも挑戦し、業界でも評判が広がっていく。

2016年には売り上げの約4割は航空宇宙関連2割が医療機器関連企業へと企業構造は全く変わり、数年で「第二創業企業」の様相を呈してきたのである。

「最初は全く未知の分野へ参入し受注できるのかという心配が大きかったけれど真面目に品質にこだわり、少しずつ挑戦しているうちに企業構造は全く変わってしまった。世界の展示会に積極的に参加し、従業員も一緒に行っているうちに皆が世界の状況を知り、当社が何をすれば伸びてゆけるかについて全員が肌で感ずるようになった。小さくとも個性のある町工場になってきた。うちでは毎週月曜の朝1時間の全体会議を開き、将来の会社のあり方を議論するうちに、当初は航空宇宙といわれてもピンとこなかった。しかし、そのうちに社員の意識が「精度の高い製品を作る」から「ジェットエンジンや宇宙開発の部品を作る」という方向に約2年で変わっていった」という。まさにわずか30人の中小企業が2年で第二の創業へと向かい出し、誇りを持ち出したのだ。毎年、世界や日本の展示会に参加し評価を受け、受注も増えてくると自信につながった。

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