コメが地球を救う
それにしても、日本人はなぜこんな苦労をしてまで、コメ作りにこだわってきたのか。
まず、第1にコメの方が、小麦よりも美味しいという点がある。中国とインドでは2,000年にわたり、何億という人間がコメと小麦を食べ比べてきたが、民衆は常にコメを望んでおり、そのためコメは小麦よりも高価となっている。
欧州でもイタリアやスペインではリゾットやパエリアなど、コメ料理がそれぞれの食文化に定着している。人類の歴史を見ても、小麦からコメに転換した民族は少なくないが、その逆は存在しない。
第2に水田の持つ環境維持機能がある。小麦やトウモロコシなどの単一作物の連作を続けると、土地がやせ衰え、不毛の半砂漠状態になっていく。
それに対して水田は保水機能を持ち、また無数の微生物や昆虫、オタマジャクシ、水鳥の共生するエコ・システムである。日本列島で何千年も水田耕作を続けてこられた理由がこれである。
日本神話では天照大神が孫のニニギノミコトが地上に降りる際に、稲を渡して、これを食物として地上で栽培するように言われた。以来、日本人は先祖からいただいたコメに感謝し、また子々孫々のために、一所懸命に水田を守り広げてきた。先祖への感謝と、子孫への思いが、日本人を困難な稲作に立ち向かわせてきた第3の理由であろう。
日本人が稲作を通じて克服してきた食糧や環境の問題に、今や、人類全体が直面している。篤農家・星寛治氏は著書『農業新時代-コメが地球を救う』で、こう述べている。
いま、地球上に広がりつつある不毛の砂漠を緑のじゅうたんに、そして黄金の穂波に変えることができれば、飢餓の時代は回避できる。そのときこそ、みずほの国日本の農民が、2,000年かけて蓄積してきた稲作技術、ノウハウのすべてを注ぎこんで、途上国の、いや人類の壮大な実験に貢献すべきだと考える。
文責:伊勢雅臣
image by: Olga Kashubin / Shutterstock.com