日本のITはなぜ弱いのか? 日米でこんなに違うプログラマーの扱い

 

2. プログラマーの立ち位置

ソフトウェアは、今や IT 産業だけでなく、様々な産業で非常に重要な役割を果たしますが、そんな中で、際立つのが、プログラマーの立ち位置の違いです。

米国では、(私自身が経験したのですが)プログラマー(ソフトウェア・エンジニア)は、プロスポーツチームのアスリートのような扱いを受けます。給料やストックオプションなどの待遇が良いのはもちろん、彼らの生産効率を最大限にするための、様々な工夫がされています。プログラマーの周りには、仕様書を書いたり工程管理をするプログラムマネージャーと呼ばれる職の人たちがいますが、彼らの仕事は、プログラマーたちのモチベーションを上げ、生産効率を上げることにあります。プロスポーツチームで言えば、トレーナーやコーチのような役割です。

そんなプログラマーたちの中でも、トップクラスに属する人たちは、クリエイティビティに溢れている上に、時代の流れを読む力があり、仕様書などには頼らず、社会にとって必要なもの、会社に価値をもたらすものを、たった一人で作り出してしまいます。

経営者の役割は、そんなプログラマーたちがクリエイティビティを発揮できる環境を作り、彼らが作り出したソフトウェアの中から、「ダイヤの原石」を見出し、それに必要な人員を周りに付けて製品化し、会社の利益に結びつけることです。

その意思決定プロセスは、ボトムアップ(優秀なプログラマが誰にも頼まれずに作ってしまった「ダイヤの原石」)とトップダウン(このソフトウェアに社運を賭けようという「鶴の一声」)の組み合わさったものです。私は、幸運なことにマイクロソフト時代にそんなプロセスに直接関わることが出来ましたが(Windows 95 と Interner Explorer 3.0)、一人一人のエンジニアが大きな影響を与えることができるソフトウェア業界だからこそ可能な、非常に特異な意思決定プロセスだとも言えます。

一方、日本のIT産業は、プライムベンダーと呼ばれる大手IT企業の傘下に子会社、孫会社、という形の系列会社が連なる「ゼネコンスタイルのビジネスが幅をきかせています。顧客に近いところにいる(=上流のエンジニアたちは、ちゃんと理系の大学を卒業しており、それなりの給料をもらっていますが、自分たちではプログラムは書かず仕様書だけを書いてあとは下請けに任せるという仕事をしているため、ソフトウェア・エンジニアとしては、世界では全く通用しません

一方、子会社や孫会社でプログラムを書いているプログラマーは地位が低く低賃金で、劣悪な環境で働かされています。彼らの多くは、理系の大学すら出ておらず、仕様書通りにプログラムを書くため「コーダー」と呼ばれたりもします。

そんな環境では、優秀なソフトウェア・エンジニアは育たないし、上に書いた「ダイヤの原石」のようなソフトウェアは決して生まれて来ません。

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