ビジネスにおける交渉術といえば、心理的に有利に立つための手法ばかり紹介されがちですが、はたしてそれは有効なのでしょうか? 今回の無料メルマガ『弁護士谷原誠の【仕事の流儀】』では、著者で現役弁護士の谷原さんが、相手との信頼関係の構築に重点を置いた、目からウロコの交渉術を紹介しています。
交渉を整理するには?
こんにちは。弁護士の谷原誠です。
交渉には、話し合うべき大小様々な争点があります。争点に一つ一つ合意を積み重ね、パズルのように組み合わせることで全体の合意に至ります。
ここで重要となるのが、争点を整理することです。争点整理は、文字通りの意味で、争点を明確にして整然と並べ、進行の助けにするためだけに行われるものではありません。争点整理それ自体にも駆け引きがあります。どの争点をいつ話し合うかによって、結論が異なってくることがあるからです。
ビジネス交渉の場面で、争点設定で優位に立つために有効なのが、「レジュメ」の作成です。交渉の前にあらかじめ、話し合う順番を時系列に並べた紙を作っておき「本日の議題を作ってきました」と言って相手に渡すという方法です。
紙に順序立てて書いてあると、人間の性として、それに従わなくてはならないという気持ちが働きます。レジュメに自分に有利に議論が進む形で争点を挙げておけばよいわけです。
「自分に有利な争点を挙げる」といっても、合意に達していない事柄について、合意されたことにして勝手に話を進める、といったことではありません。それでは、相手の態度は硬化し逆効果。あくまで、相手が自然に納得できる順番に整理しなくてはなりません。
どのような順番で整理すれば有利であるのかについては、個別性が強い部分もありますが、ひとつ大きなコツを紹介します。それは、はじめは相手にとって同意が得やすい争点を挙げ、交渉が難航すると思われるものを後にもっていくということです。
その理由として、まず、交渉の冒頭をスムーズに展開させることで、相手と良い関係が生まれ、合意に向けた流れが生まれることがあります。はじめに難しいことをやろうとすると、重苦しい雰囲気となり「もうやめましょう」となることが多いのです。
また、小さい合意を多数重ねておくと、交渉相手に「もしここで決裂すれば今までの苦労が水泡に帰す」「投下した時間や労力、お金が無駄になる」という気持ちが働き、最終的な合意への推進力になるという効果もあります。
そしてもう一つ、簡単な争点をはじめにまとめるべきであることの大きな理由があります。それは、本来あっさりOKしてくれたはずの条件を後回しにすると、もうすぐ合意に達するという段階で駆け引きの材料にされてしまうことがあること。「別にどうでもいいけど、ここはNOと言っておこう」といった気持ちが働くことがあるのです。
以上、争点整理の重要性、また具体的手法としてレジュメ作成についてお話ししましたが、交渉慣れした相手であれば、今回紹介したことを同様に意識し、同じような手法で主導権を握ろうとしてくることも考えられます。
交渉中は、相手が何を狙っているのか、議論がどのような流れにあり、自分がどのような立場に立っているのか、ということを常に意識することも大切だといえるでしょう。
今回は、ここまでです。
image by: Shutterstock