世界を試す金正恩。北朝鮮の「何が」脅威かを改めて考える十問十答

 

5.そうは言っても、北は交渉に応じるのか?

すでに2.3.でも述べたように、北の核開発の目的は米国への核攻撃そのものではなくて、米国との平和協定を締結して米国の北に対する核を含む脅威を取り除くことであるから、交渉に応じたくて仕方がないというのが本当である。

従って、経済制裁や軍事圧迫をどこまで強めて相手が屈服して来るのを待つという、米国の一部にまだ残っているタカ派の主張や安倍首相もそれに同調しているかに見えるいわゆる「強硬路線は間違いである。どこまで圧力を増せば屈服してきて、どこまでなら暴発しないかというのは全くもって計測不能であり、チキン・ゲームに陥る危険を排除できない。そのため、常に出口もしくは排水弁を用意しながら圧力をジワジワと強めるという繊細微妙な芸当が必要で、それを英哲学者のバートランド・ラッセルはチキンゲームとは区別された意味での「瀬戸際政策」と呼んだ。

私の見るところ、現在の米政権は、トランプの気紛れという危険な要素を抱えながらも、基本的に上手に瀬戸際政策を進めていると思う。翻ってそこがよく分かっていないのが安倍晋三首相で、彼は8月末の事態を「これまでと違った、より重大かつ差し迫った、新たな段階の脅威」などとピラピラした言葉で言い立ててはいるものの、何が「これまでと違う」のか「より重大」なのか、どこが「より重大」なのか「新たな段階」なのか、きちんとした説明をしていない。ただ気分で危機感を煽っているだけである。

平和協定が結ばれて、それに付随する軍備管理・軍縮プロセスとそのための相互査察・信頼醸成システムが作動すれば、北が食うや食わずで核・ミサイル開発をしなければならない根拠が消滅する。元を絶つのが問題解決の早道である。

6.北は日本の上空に向けてミサイルを撃つなど敵意を剥き出しにしているではないか?

北朝鮮は、ハッキリ言って日本をほとんど相手にしていない。それなのに、安倍首相がまるで日本が主要攻撃目標とされているかのように、重大とか差し迫ったとか言うのは、むしろ滑稽である(と、少なくとも金正恩は笑いながら見ているだろう)。

北には、日本に核を含むミサイル攻撃を仕掛けてこの国を壊滅に追い込もうとする合理的な理由がない。しかし、米国が北に対して先制攻撃を仕掛けるなどして米朝間で本格的な戦闘が始まった場合には、北が在日米軍基地を初期攻撃目標としてミサイルなどを撃ち込むのは必然である。私の予想では、

▼真っ先に攻撃されるのは青森県津軽・車力と京都府丹後・経ケ崎(きょうがみさき)の米軍Xバンド・レーダー基地、それを補完する航空自衛隊の防空レーダー基地への「目潰し」攻撃だろう。

▼次に青森・三沢、東京・横田、神奈川・厚木、横須賀、山口・岩国、沖縄・嘉手納等々の在日米軍の主要な海空基地が一斉攻撃の対象となるべくすでに目標設定されているに違いない。

▼さらに15年の安保法制以降はその米軍の対北作戦に日本自衛隊が積極的に支援を提供すべく、例えば米空母が北朝鮮近海に牽制行動に向かうとなれば海上自衛隊が共同訓練を申し入れて東シナ海辺りで実施するとか、グアムを発信した核爆撃機B1が近辺を通過すると知れば空自がF-15を飛ばして護衛の訓練を行うとか、イザという場合に米軍が北に対して核を含む軍事行動に踏み切った場合には日本自衛隊も一緒になって戦うつもりであることを繰り返し北に対して示威しているので、自衛隊基地が目標に付け加えられているはずである。

安倍首相のつもりでは、そのように日米一体で戦う意思を示すことが抑止力の強化になるということなのだろうが、これは逆効果で、北が在日米軍基地だけでなく日本自衛隊の基地をも予め攻撃目標に加えてくれと催促しているようなものである。

print
いま読まれてます

  • この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け