不眠で悩んでいる人も実際には結構眠っているらしい。仲良し友達何人かと一緒に旅行に行って、昨日の夜は全く眠れなかったとぼやいている人のいびきがうるさかった、といった話はよく聞くので、本人は眠っていないように感じても、実際は眠っていたということはよくある。本当に眠れないと、ヒトは生きていけないようだ。ヨーロッパに致死性家族性不眠症という難病がある。遺伝子異常によって異常プリオンが脳内に蓄積されて起こる病気である。主に壮年期に発病して、全く眠れなくなり、2年くらいで死に至る。日本人にはまず見られない病気だが、2年もの間、全く眠れないで苦しんで死ぬのは勘弁してもらいたいと思う。
日本人によく見られる睡眠障害はナルコレプシーであろう。単位人口当たりの患者数は、欧米に比べ有意に多いようだ。笑った途端にいきなり眠ってしまうといった、覚醒と睡眠のスイッチが極端に不安定になっている病気で、患者の脳波を調べてみると、覚醒状態からノンレム睡眠を経ずにいきなりレム睡眠に移行するという。マウスの遺伝子ノックアウトなどの実験により、オレキシンという脳内物質が欠如しているか、またはオレキシン受容体の異常によって生じるのではないかと考えられている。ということは、オレキシンをうまく脳内で働かせてやれば、ナルコレプシーは治療できるかもしれないということだ。(つづく)
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